出版舎ジグ
jig-web 連載

行政と議会ヘッダー画像

〈自由〉の〈門〉をめぐる話 阿古智子 その2

行政と議会

つづく問題点2が、「旧中野刑務所正門の配置」についてである。要望書は以下のように述べた。

問題点2:旧中野刑務所正門の配置
貴社ご提案の設計案によると、4階建ての校舎が正門に背を向け、正門全体を囲い込むような形で配置されています。また、正門の南側は校舎に接していますが、区の担当者の説明によると、校舎から正門は見えないように、正門側の窓は曇りガラスにするとのことでした。さらに区の担当者は、先述の北側の水道局管理の通路側には、子どもたちのプライバシーに配慮して塀などを取り付けるという説明もされました。こうした説明から、子どもたちに正門を見せないように、あたかも正門を隠すかのように校舎を配置したという意図があるのではないかと私たちは感じております。
現在の平和の森小学校の周辺はフェンスが取り付けられているだけで、外からも子どもたちの姿がよく見えます。意見交換会では「どうして新しい学校は外から全く見えないようにしなければならないのか。トランプ大統領のように高い壁を作らなければならないということか」と質問が投げかけられました。

区として、日本の近代建築史において高く評価されている建物を残す決定をしたにも関わらず、このように校舎の影に隠れて見えなくなってしまうのであれば、何のために残したのかと問われることになるでしょう。柵や塀で門を取り囲み、窓からも見えなくするような設計を、子どもたちにどのように説明するのでしょうか。後日、曇りガラスを使用するという話を聞いた生徒の一人から「どうして曇りガラスにするのですか」と質問されました。この子どもの質問にどのように回答すればよいのでしょうか。子どもの権利条約にも明記されているように、「意見を聴かれる子どもの権利」が尊重されるべきです。区の説明によると、正門の周りには囲いを設置するとのことですが、囲いの高さやデザインによっては、子どもたちに威圧感を与える可能性があります。私たちは、戦争の時代を切り抜け、平和を実現した日本を展望する旧中野刑務所正門を、子どもたちが自然に受け入れられるような設計案を心より望んでいます。

 

要望書では、「御社は住民参加型の設計やプロジェクトで高い評価を得ていると聞いております。非公式で構いませんので、ぜひ、これを機会に、保護者や区民からの提案を聞いていただく場を設けていただけないでしょうか」と締めくくっている。

現行案図
現行案。旧中野刑務所正門は校舎に三方を囲まれた黄色い矩形枠(保存敷地)内にある。

出典:中野区「平和の森小学校校舎等整備について」(最終更新日:2019年1月31日)
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/655000/d026738.html

 

「平和の門を考える会」が示している3つの代替案
「平和の門を考える会」が示している3つの代替案。

 

約1週間後、区の文化財担当者らが面会したいと連絡してきた。そこで「考える会」メンバーは、改めて設計案見直しの要望を伝えたのだが、担当者らは、〈さまざまな意見を配慮して考えた案〉であり、〈子どもの安全、プライバシーなどの観点からも、この案が最良〉だという。せっかく保存が決まったのに設計案でもめてしまっては保存に反対する議員たちが、また動き出すかもしれない、と危惧してもいるようすだった。

文化財担当者は、子どもが門によじ登る可能性や、見学者が門を撮影するふりをして子どもを撮影するリスクも指摘した。しかし、門を校舎のかげに配置してもそうしたリスクを排除はできないだろうし、見えにくいところに門を配置することで事故の可能性が高まることも考えられる。学校にはさまざまな建築物があるのに、〈門に子どもたちがよじ登る〉ことをあえて想定する必要があるだろうか。地震の際などにレンガが飛んでくるとも指摘されたが、門には耐震補強を施す予定だ。耐震工事後に門のレンガが崩れる事態が起こるなら、それは校舎の他の部分にも大きな被害が生じているケースだと考えられる。

【〈自由〉の〈門〉をめぐる話】連載記事一覧はこちら »

↑

新刊のお知らせ