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〈自由〉の〈門〉をめぐる話 阿古智子 その3

足元の「自由」

今日の中国、香港、そして、かつての日本 

政治は日常生活の一部

天安門事件から30年が経ったこの6月、香港の警官隊はデモの先頭に立っていた大学生らを逮捕し、立法会(議会)を包囲していた一般市民に対し、多数の催涙弾やゴム弾を撃ち込み、多くの負傷者を出した。
人民には決して銃を向けないと言っていた人民解放軍が発砲した、天安門事件の悪夢が蘇るようだった。

雨傘運動の主要メンバーだった周庭さん(香港バプティスト大学4年生、政治団体・デモシストメンバー)は、香港で大規模デモが行われていた6月中旬、日本に滞在していた。私は周庭さんに同行していくつかの活動に参加したのだが、彼女は「香港はこれから、政治難民を送り出す地域になるかもしれない」と危機感をあらわにしていた。そして、今回の「逃亡犯条例」の改正は日本を含む他の国や地域の人たちにも関係すること、政治は日常生活と密接に関連していることを強調した。

「重要なのは、香港の民主化運動に注目してもらうことです。今回の改正案は日本人の皆さんにも無関係ではないと思います。皆さんが将来香港に来たり、観光したりする機会があると思います。香港に来たら、中国に引き渡されるかもしれないと、たくさんの日本人が不安に思っていると思います」

明治大学の講演会の写真
明治大学の講演会で報告する周庭さん

「日本人の皆さんには、香港の経験から、自分の生きている社会に関心を持つことが重要だということを知ってほしいと思います。日本は、「政治に興味ない」とか、「政治のことを話していると変な奴と思われる」国かもしれません。実はそんなことはなく、政治は私たちの日常生活だと思います。日本の皆さんも、自分の国で何が起きているか、ぜひ関心を持ってもっとニュースを見てほしいと思います」
(6月12日に明治大学で行われた講演会より)

人工知能(AI)システムの発達で、各国政府は国民を監視する能力を高めた。法の支配の基盤が強固な民主主義国でさえ、政府の情報機関や警察が顔認識やDNA分析など、AI技術を積極的に使用している。そのなかにおいて中国がとりわけ警戒されているのは、中国が世界最大規模の、依然民主化されていない、独裁国家だからだ。

司法が独立しておらず、言論の自由が保障されていない中国は、国家主導で、国家利益のために、大量のデータを収集・分析することができる。実際に、新疆ウイグル自治区などでは、住民の動きやスマートフォンの使用状況を追跡できる、最先端の監視システムを導入していると言われている。

強靭なデジタル監視モデルをつくりあげ、共産党による統治を強化している中国において、人々が自由に声を上げることは容易ではない。そして、その巨大国家の勢いにのみ込まれたくない、自らの守ってきた自由を維持したいと、香港の人たちは必死に抵抗しているのだ。

翻って日本はどうだろうか。年配者や教師、そして権力者には、若い人たちの自由闊達な挑戦を温かく見守ろうという姿勢はあるだろうか。その若い人たちは、行動する自由や発言する自由よりも、空気を読む風潮や「忖度」する姿勢を当たり前だととらえてはいないだろうか。世界的に民主主義の後退が言われ現在、日本は国際社会にどのような姿勢を示すべきかを、より主体的に考える必要があるのではないか。

旧中野刑務所の正門、通称「平和の門」は、今や国際秩序の形成に甚大な影響を与えているジャイアント・中国を研究対象とする私に、足元を見ることの大切さを教えてくれた。

日本滞在中、たくさんのメディアの取材を受けた周庭。「逃亡犯条例」の改正に反対する香港の人たちの声を訴え続け、睡眠2−3時間という日が続いていた。最終日の夜、疲れが頂点に達していたのか。食べたいものを食べ、おしゃべりしつくすと、お好み焼き屋の椅子で眠り込んでしまった。

細い彼女の肩には、重いものがのしかかっている。私は母のような気持ちで、彼女を応援しつつも、さまざまな面において心配もしていた。そんな彼女は無邪気に「阿古先生の手料理が食べたかった」と言うので、次回日本に来た時は何か作ってあげようと思う。

G20開催中の6月28日、香港の人たちは寄付を集めて広告を出し自らの主張を明らかにしようとした(写真は朝日新聞)

台湾大学のシンポジウムの写真は2019年5月18日。周庭さんの写真は東京大学、明治大学、池袋のお好み焼屋にて6月15日、いずれも筆者撮影・提供。

旧知の香港元立法会議員、元民主党首、Emily Lau さんと筆者。 Lau さんは、「人は、餌を吊り下げられたら、それに食いつくような犬であってはならない。 あまりにも多くの人が中国関係の資金や機会に食いついて、人間性を失っている」と語った。

あこ ともこ 現代中国研究、社会学、比較教育学

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