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よろこびをたがやす - ともに、ろうを生きる、ながいながい物語 -

岩下紘己

その1 おわり、そしてはじまる

いまからここに記そうとしているのは、ぼくが2022年3月に立命館大学大学院へ提出した修士論文が基になっている。近年、農業と福祉の連携である「農福連携」が注目を浴びるようになっており、取り組みが広がりを見せているが、これはその先駆的な事例として知られた就労継続支援B型事業所『さんさん山城』におけるフィールドワークとインタビューの記録である。

えびいもコロッケ。さんさん山城のランチの人気メニュー

しかし、当の『さんさん山城』は2024年3月3日をもって事実上解散した。

  さんさん山城が今までいろいろお世話になった皆さま

いつもお世話になります。
3月3日(日)をもちまして、
わたくし新免の他、
さんさん山城の職員10人が退職する運びとなりました。
突然のご報告となりましたこと、
心よりお詫び申し上げます。

3月2日(土)の「さんさん土曜市」が
最後のランチでえびいもコロッケ定食です。
もしご都合よろしければお越しください。

今までどうもありがとうございました。
心より感謝を込めて……。

さんさん山城 新免

2024年2月末。それは『さんさん山城』の施設長であった新免さんから関係者宛てに一斉送信された、突然のメールだった。

『さんさん山城』が、所属していた社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会(以下、法人)と揉めていることは聞いていたが、職員10人が退職ということは、つまり事実上の閉所。

ぼくの頭はショックと悔しさで真っ白になった。あんなにも豊かで笑顔溢れる場所が、ろう文化と日本手話が息づくかけがえのない場所が、なくなってしまうのかと。
たしかに『さんさん山城』は、今回のことに限らず、もともと法人との揉め事が絶えなかった。はっきり言って『さんさん山城』と法人との関係性は良くなかったのだ。
けれどもその度に問題を乗り越えてここまで来たのだった。だから今回も何とか乗り切れるだろうと思っていたが、まさかこのような顛末を迎えるとは。
2024年2月29日のことだった。

修士課程の2年間にわたりフィールドワーク及びインタビューでお世話になっただけでなく、非常勤職員としても働かせてもらい、イベントには家族も遊びに行った。手話も覚えた。冗談を言い合える友人もできた。いろんな人の顔や声が思い浮かぶ。ぼくにとってもかけがえのない場所だった。だから余計にショックが大きかった。

しばらく立ち直れないような気分だった。

 

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