出版舎ジグ
jig-web 連載

その2 「さんさん山城」ってどんな場所?ヘッダー画像

よろこびをたがやす - ともに、ろうを生きる、ながいながい物語 -

岩下紘己

その2 「さんさん山城」ってどんな場所?

えびいもコロッケ

 

〈こんにちは!〉 〈やだ! 久しぶりね~!〉〈はじめまして。〇〇です。よろしくね〉

〈〇〇はどこにいるの?〉 〈これ3つちょうだい。いくら? 300円?〉

〈早く昼ご飯食べてきなさいよ〉〈ごちそうさまでした! 美味しかった〉

〈ありがとう〉〈もう帰っちゃうの!?〉

〈いま何時?〉

右を向いても左を向いても、玄関口でも廊下でも、カフェでも裏庭でも、『さんさん山城』のありとあらゆる場所で手話が飛び交っていた。お客さんも『さんさん山城』の利用者も互いに手話で会話が弾む。文字では表現し難いろう者独特の声が響きあう。

時折、少数言語として日本語も混ざっているが、それを搔き消すように響き渡るろう者たちの声色はひとりひとり特徴があったりする。それでぼくは何となく、あの人はあそこにいるなあとか、あの人は楽しそうだなあとか、そういうことがわかったりする。

当時、すでに少しずつ手話を学びつつあったぼくにとっては、会話に時々自分も参加できること、手話で交わされる言葉の意味が伝わってくること、がとても心地良かった。

ここではろう者がマジョリティだが、いるのは決してろう者だけではない。盲ろう者もいる。難聴者もいる。精神障害者もいる。知的障害者もいる。発達障害者もいる。高齢者もいる。子どももいる。健常者もいる。日本語話者もいる。思いつく限りありとあらゆる人がいる。手話で、日本語で、みんなが言葉を交わしている。

ふたつの異なる言葉が飛び交うので、今の、ほんとに伝わってたの?と思わず笑ってしまうような場面もあるが、みんな楽しそうにしている。

こんな場所、他にあるんだろうか?

えびいもカレー

 

次のページへつづく

【よろこびをたがやす】連載記事一覧はこちら »

↑

新刊のお知らせ