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どら猫マリーのDV回想録 その2

ただいま人生再生中

わたしは何もしてやれていない
自責のスパイラル
クーラーの効いた実家に帰る。玄関に倒れこむ。

「まだ外にいたの? どうしてそんなかわいそうなことするの。暑いのに。お昼あるわよ。」と母。ありがたいやらむなしいやら。子どもたちにご飯をたべさせながら気持ちがだんだんまともになっていく……のもつかの間。
「夫も姑もいないだなんて、あなたの人生は幸せそのものね。少なくとも私と比べたら。家を出られるっていうのは実家がしっかりしているからよ」

正しい。数々の暴言になすすべもなく、チャーハンを貪るわたしに母はさらに追い打ちをかける。

「その顔やめなさいよ。能面みたい。笑顔でいなさい。声の高さはラの音でね。それと聞えよがしのため息もだめよ」

この家では息も吸えない。食べ終わったらまた公園に行こう。お昼のニュースでは熱中症の危険があるため外出は避けるように言っている。ということはまた公園は無人だ。水風船でもあったらいいのに。

「ところで今夜、見に行くの?」と尋ねられてまた意味が分からない。どうやら今日は地元の花火大会のようだ。ここから丘を下るとベストスポットがあるらしい。ポーとエリーは花火自体が初めてである。寝る時間のリズムが狂うとまた厄介だが私は見に行くことにした。

日没間近だというのにやっぱり暑い。
ささやかな人だかり
あ!
しばらくすると前方に、ちょうどビー玉くらいの大きさの花火が揚がる。しかも花火大会はどこかで同時に行われていたらしく、その向こうに、今度はビービー弾くらいのがポンっと上がる。

キャー!!!
我が家だけ大歓声。見たことがないだけに感動もひとしおである。私は腕の疲れもわすれて二人を交互にだっこした。ガードレールに乗せて後ろから支える。そういえば私もこうして支えてもらったことがある。久しぶりに心あたたかな記憶がよみがえった。

ハート、どらえもん、しだれ柳

懐かしい仲間たちのようだった。すると次々に懐かしい記憶がよみがえった。毒々しい色のかき氷。かわいいと思ってかぶるのだけど、実は不気味なアニメのお面。どうせ食べきれない綿あめ。ソースのにおいが充満する人込みで両親を見失わないように必死で追いかけた。迷子の子を見ると、「私は大丈夫」という何とも言えない上から目線。途中で同い年のいとこ家族と合流。焼き鳥は串が痛いからと最初の一個だけ食べさせてもらった。

私は確かに愛されていた。

私はその日から卑屈であることをやめた。この世は感動に満ちている。これからやってくるいちょうまぶしい秋も、万両の輝く冬も、そして桜も。決してあきらめない。子どもたちが好きなものを一緒に探して、見つけて集めていこう。

***

そんなことを思い出しながら歩いて、とうとう公園まで来てしまった。ここまで40分。
そういえば職場へ続くこの大きな公園は、花火大会の開催地だ。あの花火はここから上がっていたのだ。

木々が生い茂って少し涼しかった。歩いて歩いてとうとう送迎者とすれ違うことなくたどり着いてしまった。シフト表を見ると、珍しいことに今日のドライブはゼロ。遅刻した私に同僚も上司も、そして利用者も優しかった。お話をしない利用者は目を見開いて私を見る。「今日ちょっと時間休いただいています」と挨拶もそこそこに、排泄介助が終われば早々にお昼の準備である。日常は続く。

やっとスタート地点
これから向き合っていくことも数々ある。でも私はあきらめない。
どらねこマリーは今日も行くのである。

*児童扶養手当。父母の離婚などにより父又は母と生計を同じくしない児童が育成される家庭(ひとり親家庭)の生活安定と自立促進に寄与し、児童福祉の増進を図ることを目的として養育者に支給される社会手当。

どらねこまりー ペンネーム。2 児のシングルマザー、DV サバイバー

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