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どら猫マリーのDV回想録 その4

プレイバック・パンデミック・パニック(続)

現況届(*)は1通では収まらない。受けているサービスがある分、届く。
*児童扶養手当等の現況届。年に1度、市区町村が養育状況等を確認し支給要件を審査する

たった1日違いで、もう1通届いた。封を開けてみてびっくり。配偶者は…… ええええっ。「無」の方にしっかり〇が付いているじゃありませんか。私が電話をしたときにはすでに発送されていたであろうこの書類。〇をつけたのは少なくとも私ではない。

あっはははは、この笑い方はエリーがよくする。高らかで朗らかで軽い音。まさか自分からもこの笑いが出てくるなんて。でもこれはもう笑うしかなかった。
雄猫くんよ、「ない」ことにされているよ。

遺棄を申請したのはもちろん私。でも、どうにかマトモな世界に止まろうと、必死で爪を立ててこらえていたあなたを知っているのも私。なかったことにされている。これぞまさしく暴力だね。あなたはたしかに加害者だった。でもある意味、被害者だった。そして私たちは仲間だった、家族だった。

コロナの中にあって初めて思うんだ。緊急事態宣言が発令されて、外出が制限されて。暇を持て余した子猫2匹。私は2匹を連れて、少しでも人がいない公園を選んだ。するとひなびた公園がひとつあって、そこにまた古い滑り台が1台。遊具はあたりを見回してもそれだけ。色どりといえばシロツメクサとたんぽぽくらい。2匹は順番に滑り台を登っては滑り、滑ってはのぼり。

この世に私たちしかいないような感覚に襲われた。

もし、どこか別の星があって、そこにはコロナなんてなくて、2匹と同じくらいの子どもたちが夢を追いかけ、恵まれた環境でのびのびと才能を伸ばしているとしたら。そして今、その星から宇宙船がやってきて、不憫なこの地球の子どもたちを回収しているとしたら……

私は迷わず2匹を乗せるだろう。滑り台1台しかないのだったら。してやれることが少ないのなら。2匹の幸せのためには手放すしかない選択もありうる。そして私はこのひなびた公園に取り残され、空高く上る宇宙船を見送るだろう。そこで私は涙が出た。

さびしくて、そんなのヤダ! やだやだやだやだ! くだらないといえばくだらない想像で、涙が出てしまった。
そしてこの感情が雄猫さんの胸の内だったのだとふと気づいてしまった。

安定した国、豊かな国・日本へ、子どもたちを送るべきなのだ、でも一緒にいたい。俺は邪魔者なのか。俺は良い親でありたい。良い夫でありたい。一緒にいたいが、あきらめるのが、正当だ。でもできない。一緒にいたいから。

じゃあ、一緒に宇宙船に乗り込んでしまったら良かったんだよ。

そう簡単に言わないでくれ、居場所なんてあるわけないじゃないか。母親を捨てることはできない、親孝行という壁。国を捨てることはできない、ナショナリズムという壁。勇気がなかったの一言で片づけないでくれよ。

雄猫くんは、きっと、そう思っていた、2匹に触れるたびに。そして、嘔吐した。
そして物を投げ、開き戸は粉々になった。粉々になったのは開き戸だけではない。いろいろなものが粉々になっていく。そのひとつが雄猫くん自身だったことは言うまでもない。


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