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どら猫マリーのDV回想録 その5

マリーさんの誇りと絶望(話は少し、さかのぼる)

となりの国から帰国してしばらくたったころ、日曜日の過ごし方に困ったのだった。
夏の間、水遊びだの公園だの渡り歩いて思ったことは、子ども2人の体力は半端ない、ということ。長い、長い1日を、たのしく過ごしたくてもどうしようもなくて、ただただ耐える日々だった。

加えてポーの言葉の問題と周囲の無理解があって、私は躍起になっていた。
この子が理解のできない子であるはずがない。日本で暮らして1年半。そして韓国へ。この子が生きた年月はたった18か月。言葉自体がまだ発展途上なのだ。

韓国に渡ったほんのひと月ほどで、彼は2つの言語体系があることを悟り、おもちゃの電話機をもってよたよた歩き、母親には「もうしもうし?」と耳にあて、父親には「おぼしぇおー(여보세요?)」といって耳に当てた。2人の間を行ったり来たり。

大きなお尻に小さな肩。ふっくらとした手の甲を私は覚えている。だからこそ、子どもたちの心を、楽しい、うれしい、すごい、素敵!でいっぱいにしたかった。

それには神羅万象が必要だった。

「水」が水になって空気になって、氷になる。この摩訶不思議な世界を知ってほしかった。部屋を燃やそうとした父親と、そこから逃げるだけが世界じゃない。それを証明したかったのだと思う。

誰に言われるでもなく気負わざるをえない私がいまではいとおしい。思いつくのが動物園や水族館、博物館なのだから。私の発想はどこまでも陳腐だ。とはいえ、未就学児を連れてのキャンプだの岩釣りだの、そんなものできっこない。

確か、初めてのお出かけは動物園だった。あれは勢いだった。

入場券で入った駅のホームで電車を見ていただけだったんだけど、エリーは寝たし、電車も空いているし、ポケットには「念のため」と毒親さんが持たせてくれた5000円があったし、えいやっ!と乗ってしまった。魔法瓶に、おむつに、おやつに、着替えに…。軽く一泊できそうなセットで隣町の動物園へ。

フードコートで何か食べたりして、何だか「普通の家族みたい」で涙が出た。

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