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どら猫マリーのDV回想録 その5

マリーさんの誇りと絶望(話は少し、さかのぼる)

映画のジャイアンがやけにかっこいいことも手伝って、涙はとまらなかった。そんな母を2匹は不思議そうに見つめながら帰った。映画館に訪れた人にくれるキーホルダーを片手に。手違いだったのか、サービスだったのか、スタッフさんはおもちゃを、大人の私にもくれた。

私はこの日、強く、大きく決意した。何をって? そうそれは、映画は絶対、映画館で見る!ということ。低所得者、大きな決意でした。手帳には、いろいろな映画の公開日まで加わった。「1日」と「日曜日」が重なればこっちのもの。前売りを買い忘れても割引が受けられる。

あああ、なのにドラえもんも延期。プリキュアも延期。エリーとポーに見せてやりたい世界はもっともっとあるのに。たかが映画で何もそこまで絶望しなくてもと思うかもしれない。でも、失意のどん底の人間が楽しみを見つけたのだもの。

映画のみならず、水族館、博物館、観劇などなど、それから行動範囲はどんどん広がっていった。楽、ではなかった。2020年の東京オリンピックで沸く都内。バリアフリーは一部のことだった。ベビーカーで都内を歩くことの難しさよ…時にはぐったり眠ったエリーをベビーカーごと抱えて乗り換えの駅の階段を上った。エレベーターは遠いし、エスカレーターは下りのみ、なんてことはざらだった。

今まさにバリアフリー化といった新宿駅は、それゆえに工事中。ますます道は狭まり、私の二の腕は太くなるばかりだった。だけどあきらめるわけにはいかなかったんだ。

ポーの療育のS先生が言ったことば。
「感動があれば言葉はどんどん出てくるのよ」。
感動… 技術や訓練ではなくて、必要なのは感動なんだ!

自閉症の症状がみられるといわれていたポー。それゆえに彼の発達を誰も信じてみようとはしなかった日々が続いていた。子どもは成長が早いから、あっという間よ、なんて言われる一方で、おしゃべりがなかなかできなかった。

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