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どら猫マリーのDV回想録 その6

魔除けの指輪(話は少し、さかのぼる)

今はおうち時間を大切にしよう。当時の私は資格取得にも手を出していた。
朝は冗談ではなく4:00起床。朝の支度が始まる6:00までが自分の時間だった。

絶対に合格する。必ず何か飛び出た職員になる。その業界ではオールマイティと言われる国家資格。役職でも持っていない人もいる。必ず取得してやる……とにかく時間がなかった――今は、その資格も取得できて、非正規雇用から正規雇用へ躍進した私がいる。

そうして経済的にゆとりができたとたん、「探検」ができなくなるのだから、皮肉なものだ。私は新たな資格取得に励んだ。自粛のおかげで、外出系の任務は全て中止になった。事業所の行事もすべて縮小。時間は余っていた。

ちょうど緊急事態宣言が出た中ごろ、その国家試験だった。こんな中でも試験を決行するのだから国家試験はやはりすごい。

1年半ぶりの東京23区。
ポーが幾度となく、「明日地下鉄乗る?」と聞いてくる。「だってさあポー……」と、私が答える前に「コロナだから? 緊急事態宣言ねぇ」と残念そうにつぶやいている。そんな彼には申し訳ないけれど、ポーを差し置いて、名だたる鉄道を乗り継ぎ、私は試験会場にたどり着いた。

試験会場では「換気します!」の掛け声と共に窓が開けられ、都会のビル風でブラインドが舞った。席は互い違いに座らされずいぶんとゆとりがあった。
試験は無事終了。「週末の人手」を伝えるカメラを避けるようにして私は駅に急いだ。

それにしても1年半は長いようで短い。
1年半前、エリーのまさかのおもらしで駆け込んだ多機能トイレ。無駄に高くて3人分のケーキセットを頼んだことを後悔したレトロな喫茶店。ポーが、「おとこのこだから!」と初めて一人で用を足してきた男子トイレも、まだあった。今なら何でもない駅の階段が、当時はものすごく高く、大きなものに見えたっけ。

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