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どら猫マリーのDV回想録 その7

ニシキヘビ

「あ、ごめん、開けちゃった」

質素な事業所の女性ロッカー。なんだか部室みたい。世の中がコロナ、コロナと騒ぐ前から、私は仕事着と通勤着を分けていた。のそのそとジーパンを着脱する私に、ドアを開けちゃって「失礼!」というわけだ。

「だめよ、嫁入り前なんだから」と始まって、私は「もちろんですよ」とニヤニヤ返せば、「絶対、行くのよ!2回目!」とほかの誰かがまた話をふくらます。私はますますニヤニヤする。「いーですねー。」まんざらでもない。もったいない、もったいないと周囲が言ってくれるのが。もったいない、もったいない。

平和な日常のありがたさを知る。仕事があって、帰る家があって。当たり前のようで当たり前ではない。もったいない、もったいない、ありがたや、ありがたや。

「次の餌食は誰かな」と冗談でも言おうかと振り返ると、彼女はもうそこにおらず。だぶん、保健室あたりか、少し遠くで同じ会話が聞こえてきた。嵐のような人だ、と思う。

結婚という行為が複数回ありうることを、まるで節操がないかのように思うほど堅物ではないつもり。でもいざ、いろいろと想像を膨らませても、あまりに現実とかけ離れていることに気づいたりもする。私にとって結婚生活は苦しいだけだった、とつづることができたらむしろ、幸せだろう。

確かに苦しかった。けれど、それだけでもない。

自らがDVを振り返り、それを綴る、という行為。
これ以上に私を元気づけるものはなかった。記憶がまだ新しかったころは。
あんなことがあったの。こんなことも。でも今は幸せ、という単純さがあった。

出来事そのものが、書き記さずにいられないパワーをもっていた。それを裏返せば、それほど残酷な出来事だったということだ。

 

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