どら猫マリーのDV回想録 その7
ニシキヘビ
でもしかたない。「アッパもハルモニもエリーのことが大好きだったんだよ」と、とってつけたように伝えてみる。でもそれは本当のことだ。2人とも、2人のことを愛していた。だからくるっていったのだ。ままならない日常に。ままならない自分自身に。
「もう寝よう」
私は2人の間に入って横になる。
タブレットに依存した子育てが相変らず続いている。絵本を読み聞かせ、おやつは手作り――そんな子育てに、あこがれてもいた。誰が教えたわけでもない母親像が時折のっそり顔をのぞかせる。
「今日は何を観ようか」
チューリップが咲くまで、モンシロチョウの巣立ち、危険生物、世界の不思議な植物…… 情報の質はどうであれ、世界中にいるのだなあと思う。「あったらいいな」を作り出す人が。
これといってたぐいまれな身体能力も持ち合わせない、海辺で砂山でも作るのがせいぜいな私。Youtubeくらいでちょうどいい、私の好奇心を満たしてくれるのは。眠くなったらそのまま枕元へポイ。電気を消しに起き上がらなくてもいい。アクセスできるのは世界中。いえいえ、国際宇宙ステーションのライブ映像だってある。
何て素敵なのだろう。
エリーのリクエストは「危険生物」。
何を根拠にしているのか10位までのランキングを観てみる。ホオジロザメに、サソリに… これはワニだね。生物それぞれの特色を織り交ぜて紹介してくれている。
「“ぜつめつ”だって。ポー。聞いてる? ぜ、つ、め、つ」
一般的な小学生なら知っていそうな表現をかいつまんで説明する。
コロナ以前は都内の水族館や動物園に出かけていたが、それがままならない今日この頃。Youtubeさまさまである。ニシキヘビは成人男性さえも飲み込めるらしい。どういうタイミングなんだろう。ニシキヘビに飲み込まれるって。
「パパかな」
は?
「せいじん だんしぇいって、おとなの男の人でしょ? パパさあ、飲まれたんじゃない? ニシキヘビに」
爽快、だ。
そうだね。もうさ、飲まれちゃえばいいね。
頭の中では、じたばたする夫君がニシキヘビのおなかにすっぽり収まっていた。
痛快。そんなマリー一家の夜は更けます。