どら猫マリーのDV回想録 その11
ポーとエリー と アッパ
眠る前、動画を観る。
ある時は危険生物、あるときはタンポポが綿毛になって飛ぶまで。
眠る前の時間を豊かにしてくれる習慣は、今はアクリル画作成が流行り。ペインティングナイフのこすれる音やBGMが心を穏やかにする。
真っ白なキャンバスに数滴のアクリル絵の具からあっという間に描かれる海辺の風景。
絵具が落とされるのを見ながら「マーブルチョコみたい」と言っていたエリーからは寝息が聞こえる。本物みたいな波しぶき。描くために金たわしを用いていたっけ。
ざざーんざざーんとBGMはいつの間にか波音に変わっていた。
作品が美しいのと、波音が心地よいのとで、私はしばらくそのまま作品を眺めていた。
ポーの様子がおかしい。
暗闇のなか触れるとほほのあたりがしっとりと濡れている。
ポーは感動しやすい。こちらとしては学校教育に慣れてもらうために見せたモンシロチョウの巣立ち。それもBGMが切なくてしくしく。
夕暮れも駄目。
この間は断捨離で出てきたぬいぐるみを手にし、「みんな 暗いところ いたね」としくしく。
そういえば、遊園地。
大人用のジェットコースターに乗りたかったけど、身長が足りず断念。エリーは「ねーねー何で―」と不機嫌な声をだしていた。「だって、ベルトが合わなくてぽーんって飛んで行ったらどうするの?」とユーモアを織り交ぜて伝えたのだけど、変わりに乗ったメリーゴーランドでやはりポーはしくしく。「えりーちゃん だいじ いもうとね」とのこと。リアルに想像し、かなしくなったらしい。来月には10歳だというのに。また始まったか、と思いつつ頭をなでる。小柄な成人女性よりははるかに大きなポー。ジャイアンの形をしたのび太君だ。
「アッパといっしょ。行ったことあるよ。海」
私はおどろいて向きを変える。
頼って寝ていたエリーが反対側にごろんと転がるのが分かったがそのままに尋ねた。
「ポーゃん、憶えてるの?」
ポーが湿った声で続ける。
「ちょっと 怖かった」
もしやと思い、待てずに尋ねる。ポーは言葉の獲得に苦戦中。考えながら話すのでなおさら時間がかかる。待ってやりたいとは思うのだがはがゆい。
「アッパのこと?」
数々の恐ろしい記憶がよみがえる。もし、彼に傷として残っていたらどうしよう。
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