どら猫マリーのDV回想録 その12-1
ベビーシッターさんのこと Ⅰ
ない。やっぱりない。
家族総出でいわゆる断捨離中の我が家。あるはずの本が数冊見つからない。
もう捨てられてしまったのだろうか。
断捨離の主導は意外にも父だ。父は公務員として定年まで全うし、昨年3月、再就職先の職場も任期満了に大人の事情で数年プラスされて退職となった。
と、ここまで読めば、なるほど、一つの人生の節目というわけですね、と解釈されるだろうが。答えは、否、である。なにしろ、ここはマリーさんちだ。朝起きて、何もやるべきことがない。しばらくは、読書に明け暮れていたが、時代小説も近現代史もある程度読み終わってしまった。そこで父は、「そうだ、娘の世話をしてやろう」と思ったらしい。私が帰宅すると、私の部屋が何となく片付いている。机の上も、誰かが触った形跡があった。汚い部屋を見るに見かねた母かと思ったが実は父親だった。
「だってお世話になっているじゃないの。孫の送り迎えはお願いする、でもプライベートは守りたいはありえない」
母は真っ向から否定した。手伝ってもらいたいならいい子にしていなさい。
私は茫然とした。
私が入浴していても、もちろん、脱衣所には入ってくるのが私の父親だ。私は風呂の蓋の半分を着替え置き場として、どうにかこうにか、湿気たところで脱衣、着衣をしなければならなかった。そのことを母に伝えたこともあったが、
「気に入らないなら出ていきなさい。間に挟まって私も疲れる。子どもたちのご飯のことも手伝ってもらえて、急なことでと思って手伝っているのだから、感謝こそすれ、文句があるなんて……!」
言語道断だ、とでも言いたげだった。
「だってあなた、お父さんがそういう人だってわかって帰ってきたんでしょう?」
父にしてみれば、定年退職と同時に、娘が長男を連れて避難してきて、第二の職場にやっと慣れた夏には、今度は娘は長男と長女を連れて避難してきて、自宅に居座られて、気が付けば習い事の送迎をやらされ始めたわけだ。
「ああ、何か締まらない」とぼやいていた。
よし、3月31日だ、明日からは新年度!となっても、やれ、新学年だ、日常は続くのだから。それこそ毎週日曜日、新たな気持ちで目覚めた朝、父が新聞を取りに行きながらまず目にするのは、洗っていない上履きだったりする。
そんなものが横たわっていたりする玄関に誰がした……!である。
私は、私の部屋のことは触らないでほしい旨を父親に伝えた。
「汚いのに放っておけること自体が理解できない」
「ふてぶてしい」
「仕事をしている母親でももっと頑張っている」
予想通りの解答が帰ってきた。
「何なら出て行ってもいいんだ。ばかやろう!」
最後は怒鳴り声で、2匹がふとタブレットから目を離してぱっとこちらを見たので、私は引き下がることにし……ようと思ったがやめた。
もっと大きな声を出してみた。
「私は、ばかじゃない!!!!」
何とも言えない不快感とやるせなさで次の日の仕事は急なお休みをいただいた。
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