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どら猫マリーのDV回想録 その12-2

ベビーシッターさんのこと Ⅱ

「これ、見ろよ」
父親がぼろぼろになった段ボールを見せた。

ネズミが食いちぎり、中身が見えている。祖母の草履だった。高級品を好んだ祖母。大切にしまいこんでいた小物たち。
「お前のはギリギリ大丈夫だったぞ」
と、別に積んであった段ボールも底の方がカビて変色している。修士論文の資料だった。
「またいつか、始めることもあるんじゃないのか」
父は言った。父はそれを雑巾で拭いてくれた。そして大笑いしながら私に渡した。
「こりゃ、ぎりぎり、本文は読めるな。」
金色に刻印された、有名国立大学の文字。修士論文そのものが出て来た。
が、背表紙の下の部分が食いちぎられ、本文の紙が見えている。やられた……。

どら猫マリーがネズミにやられるなんて、それだけでストーリーになるじゃないか。くそっ! きっとこれは、新しく始め、書きなおせという神のお告げにちがいない。
そう、神の、ね。

あとから出て来たのは、私が読んでいた絵本だった。それらはエリーとポーにあげた。
祖父が趣味で使っていた上質なスケッチブックも、今さら2人がはまっている「こびとづかん」のこびとで埋まり、あっという間になくなった。最初の1ページは、私の書いた「おんなのこ」が描かれていた。

私とその人の過ごした2週間。その意味や理由は誰にも分からないし、誰も知らない。

でも、その人のことを思い出し、ソウルや田舎のシェルターで会った「困った女性」たちを思い出したのと同じように、いろいろなことを思い出している。だからこの続きも書いてみたい。あの人たちは、いまどうしているのだろう 。

 

どらねこまりー ペンネーム。2 児のシングルマザー、DV サバイバー

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