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どら猫マリーのDV回想録 その13

カルトな私 partⅠ

  原理研究会

私はダサい女子大生で、コンパが嫌いだった。
1年生のときはそうでもなかったが、2年生ともなると、恋愛にバイトに、みんなそれぞれが忙しかった。仲の良かった友だちは彼氏にとられ、友だちと集まれると思っていった先には酒が伴い、サークルの運営だの、誰彼が別れただの、くっついただの、何の意味も感じられない徹夜のおしゃべりが本当に嫌だった。

それでも、アカペラサークルに所属していたし、日本語教育の勉強も面白かった。ボランティアに等しかったが、日本語教師として教壇に立つような実習もあった。留学生や外国人労働者(ほとんどが研究生やその家族)の出身国の事情を少しでも知りたくて、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教などの三大宗教や、国際紛争が分かる講義で埋めていたので、大学生活は、それはそれは忙しかった。

下宿先に届く母からの小包には、怪しい漢方茶が入っていた。20歳そこそこの女子が高麗人参で健康管理。おかげで、冷え性やPMSは解消し、私はますます元気だった。足はすっかり元気だったけれど、恋愛はしばらく嫌だった。

捨てる神あれば拾う神あり。留学の説明会のために校内で時間をつぶしていたある日、私は画用紙を手にした男子学生に出会う。「ために生きることを通じて、世界平和を実現しませんか? ボランティアサークルちょぼら(ちょこっとボランティアの略)」
「こんにちは! あの、ボランティアとか興味ありませんか?」
と、その男子学生が言い終わるが早いか遅いか……
「統一教会ですよね?」
とたずねると、男子学生の顔がこわばった。
でもしっかりと目を見て答えた。「はい。」私はその潔さは尊敬した。

統一教会という響きは、私には気色悪かった。「統一原理」という、それはそれで完結した一つのストーリーがまとめてあることは分かるし、そこには信仰の自由はあるとは思うけれど、信者は、相談者が話している最中に、徹夜祈祷や神への奉仕を理由に眠りこけるような人物だったのだから。
男子学生の後ろの方では、「あーあ」という雰囲気があった。「ちょぼら」の仲間たちだろう。「あいつ、言っちまったよ……バカ……」とでも言いたげな恨めしそうな顔だった。
私と原理研究会との出会いだった。

  居場所

「マリーさんはチャーチ出身なんだね。お母さんが霊の親だから信仰二世だね」
し、しんこう? 母に信仰って、あったっけ? 霊の親? 信仰二世?
彼らの言っていることの大半は分からず、私のアイデンティティにかすりもしなかった。
統一教会には分派もあるし、名前を変えた会社組織もあるし、いくつもの団体に分かれているらしく、「ビデオセンター」もその一つなのだそうだが、そのうち、大学生を中心とした組織を「原理研究会」というらしい。

原理研究会が行っている活動内容は、今でいうところの子ども食堂や、無料学習塾、等だった。地域の公民館で小学生に勉強を教えたり、サークル部屋で韓国料理を振舞ったりといった活動をしていた。それはビデオセンターでビデオを見てお話をするだけより、はるかに分かりやすい活動だった。
「統一原理を広めることが目的ではない。その原理を知ったうえでどのように活動するか、為に生きられるかを考えている」
といったことを、原理研の同級生は言っていたけれど、よく覚えていない。

 

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