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14歳からの緊急事態? カエルおじさんと中3ひよこさんの対話

5月編“学校って何だ”

人権侵害だね。

非常時だ、戦争なんだから、子どもの教育なんか後回しだと。

なにが非常時? 大人たちが戦争をしたくせに。

だから、戦争の時期に12歳くらいだった人が親になったとき、つまり1960年代の親たちは、とても教育熱心だったわけ。その時期の教育学者たちも、それをよく知ってて自分も経験しているから、学ぶことは権利だって言っていた。

なるほど。学ぶことは権利だって言っていた人たちのことを、あんまりよく知らない…

あと、ヨーロッパやアメリカの場合は、階層差とか人種差別で教育を受けられない子どもが多いってことは、ずっと問題にされてきた。格差の研究とかも、そこから始まったんだけどね。だけどその根っこは、教育を受ける権利の問題だよ。それを現代の日本は忘れちゃったのかなと思った。内戦とかの人道支援でも、医療や経済の支援も大切だけど、教育支援も優先するわけだよね。そのくらい基本的人権だと思うよ。

命は大切です! でも教育って、生きていくうえで、ないと、半分死んでるようなもんだと、個人的には思う。命の次くらいに教育は大切かな。勉強をやると世界が広がるとか、選択肢が増える。自分でものごとを考えて対処できるようになる、とか。

いい答えだけど、なんか、人の言っていることの受け売りなんじゃないのって気も、若干するんだけど。

世界が広がるっていうか、視野が広がるっていうのはあるかも。小学校のときにめちゃめちゃ時間とかかけてた計算が、中3になって乗法公式を使うと一瞬のうちにとけるとか、感動するよね。

へええ。

あと、学校っていう場所って、子どもにとってちいさなコミュニティだから。他人とかかわる、社会に出るときの、かなり根っこになるものなんだと思うよ。

ほお… 他者と出会う訓練。具体的には?

ケンカしたあと、どうやって修復したらいいとか、どうやって取り持つかとか。交渉したり、打ち負かしたりするとき、暴力的じゃなくどう言えばいいかとか。親以外の年上の人と、どう関わればいいかとか。

なんか大人でも、それ、できない人も多いかもね。大切なことだけど、視野が広がるのと、教育がないと半分死んでいるのと同じっていうことはどうつながるの? 聞く人によっては、何コイツきれいごと言ってんのって思うかも…

キレイゴトじゃんて思う人も、気づいていないだけだと思う。小学校で習った漢字って、めちゃめちゃ使って生活してるし。それっていつから書けるようになりましたっけって話じゃん。漢字1個おぼえるのだって、世界がひろがってることじゃん。

いままさに習っている人から聞くにはすごいセリフだな。そんなこと自覚しながら習ってるの?

おお~すごいな~勉強…って思えるようになったのは、中学校にあがってからだけど。

小学生には勉強はたんに苦痛なんじゃない?

苦痛っていうか、自分が分からないことをやらされるから、ストレスがたまる、ってことかなと思うけど。子どもって、ストレスがたまってるんだとか気が付けないから、すごくイライラしたり。でも学校って、小学校の子たちにとっては我慢を覚える場所だからさ。

君はその経験をまだおぼえているんだ?

覚えているわけじゃないけど、考えてみたらそうだよね。このくらい我慢できないと、そのあとのことができなくなっちゃうよ、って分かる場所。

朝ちゃんと起きられるとか、40分のあいだ集中しているとか?

毎日同じ場所に行くっていうのも結構大きい。それと、ちっさいけど自分の役割をになうっていう。5年生とか、委員会もやるじゃん。

でもそれ、学校じゃなくてもいんじゃね?っていう大人もいるかもしれないよ? 子どもだけで、学校なんてものに縛られないで…

ああ、「ぼくら」の世界とか。

そう、宗田理さんの小説シリーズ。「ぼくらの七日間戦争」は廃工場に子どもたちがたてこもって、大人と闘うし。

それ、中1の主人公たちが工場に立てこもるけど、工場に住んでるホームレスのおじさんが助けてくれたり、学校の先生が訪ねて来たり、東大の闘争に参加して逮捕もされたって親の子どももいたりして、ちゃんと大人が導くんだよね。たしかに子どもがグループをつくって、リーダーを決めて、誰が何の担当か決めて、毎日の運動も何時間やるとか子どもたちで決めるけど。大人はみんなダメって設定でもない。

君は意外とリアリストだね。子どもだけでやるのは無駄と思う?

無駄とは思わない。「七日間戦争」の話の感じとしては、子どもの意思を大人たちに伝えるっていう意味で、何かがやれたのかもしれないよね。

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