で、塾の方が楽しいの?
何の方針も出てなくて、いろんなお楽しみがおじゃんになりそうな場所より、行けば友だちがいて、ラフな状態で過ごせる方がいいんじゃない?
塾の方がそういう状態を維持できてるわけね。
塾はさ、映像授業を始めたのが3月、zoom授業を始めたのが4月、ってことは空白は1ヶ月間でしょ。学校は、週に1度のプリント配布を始めたのが5月、だから3ヶ月。2ヶ月の違いって大きい。
3ヶ月の空白は、子どもにとっては長いね。
zoom授業では友だちともチャットで話もできたし、先生の顔も見て話せるから。すごく馬鹿みたいな雑談も、学校でできないぶん、塾でやった。だから塾の方が楽しいってのがあるかもしれない。
zoomに切り替えるのは大変だったみたいだけどね。個人情報とか、受信環境とか。塾はそれでもなんとかzoomをやったけど、学校は全くできなかった。その違いってなんだろうね?
学校は公的な場だけど、塾は私的だからかな。学校は先生と生徒ってちゃんと分かれてる。塾の方は、なんていうのかな、もっとラフなかんじがするよね。
塾は受験競争でギスギスしてて、学校はみんなで和気藹々って考えがちなんだけどね、大人としては。そこは、違うわけ?
今回に限っては逆転してるかも。塾はzoom授業で家庭とつながったから、距離が縮まったかな。
それに対して、学校ってのは部活動とか行事がなくなると、味気ないわけ?
そうなんだよー。
日本の学校は行事とか部活動が多くて無駄だっていう議論もあるけど、それは取り柄なわけね。逆に、日本の学校は授業では魅力のあることをやってないってことか。
魅力のある授業の先生もいるけど、横に友だちがいるから雰囲気として楽しいのであって……。
ちなみに、塾ではみなさん志望校も決めてて、学力も落ちずにやってるんですか?
塾の先生が言ってたけど、学力は、今回全員が明らかにまとめて落ちてるって。そりゃあそうだよ。塾は3月から始まったけど、それでも空白があったわけだからさ。塾の先生たちって、たぶん学校の先生たちより、受験生の面倒見るっていう使命感があると思うんだよね。合格させなきゃってビジョンがあるし、親御さんからお金をいただいてるって意識も、学校の先生とちがって強い気がする。競争もあるから学校みたいに悠長にやってられないのかもね。
すると君は、全ての学校を塾みたいに民営化すればいいと……?
そんなことは思わないよ。けど、なんというかなあ。塾の先生は、子どもたちを受験に導かないと自分たちの実績にならない、給料にもならないっていう、信念って言ったらおかしいけど……。
学校の先生にはないの?
あると思うけど、塾の先生たちとは違うものかなって思ったりはするよね。
ところで、都の教育委員会は都立高の入試範囲を狭めると言いましたね。
狭めるとは思ってたけど、けっこう大事な部分だよね、大丈夫?って思ったけど。
なにが?
まず英語の関係代名詞。関係代名詞なきゃ長文の問題は出せないよね。私立とか出題を自校作成する高校は、範囲に関係なくばんばん出すと思うけど、都立の共通問題はどうなるんだろう。あと、数学の三平方の定理。
前に君は、受験を予定通りやるなら、期間が短い分、受験範囲を狭める配慮がほしいと言ったけど?
範囲というか削った部分が思ってたよりでかい。三平方の定理がないと問題を解けません……。
それは去年までの出題内容だったらね。
そう。でも、その手の大問を削ったら、点数をどうつけるのか難しいと思う。
ちいさな計算ミスとかで勝負が決まるってことじゃない? 入試の出題範囲を削らない高校と、削る高校が、分かれてしまうかもね。削らない学校は、高校に入ったあとも、補習に時間を使わないでどんどん進むんじゃないかと思う。要するに、やっぱり格差ができてしまうって話になる。文科省は「学びの保証対策パッケージ」*というのを出してて…… *注:令和2年6月5日文部科学省初等中等教育局「新型コロナウイルス感染症対策に伴う児童生徒の「学びの保障」総合対策パッケージ」
ネーミングセンスがちょっとね……。
ここを見てください、「あらゆる手段で子供たち誰一人取り残すことがなく、最大限に学びを保証」。
できるわけないと思った。
「ITCの活動」や「オンライン学習」のための「人的資源」の「緊急整備」とか、それから「最終学年以外の生徒は指導事項の一部を次年度以降にまわすことも考え……」。
このページのさ、「臨時休校中も学びを止めない」って、できてたっけ?
「速やかにできるところから学びの再開」、「あらゆる手段を活用して学びを取り戻す」とも言ってます。さらに次のページでは、「人的物的体制の整備」をしますと言ってる。さらに進むと、行事も全部やるって言ってるよ、運動会や文化祭は10月、11月に、って。
なんかこれ、区と国の方針が違ってるような?。
文部科学省によると、これは「展開イメージ」だそうです。
なにもかもが素晴らしくいった場合であります。
「5月末までに臨時休業が行われた学校における令和2年度の学校教育活動の展開に関するイメージ」ってあるよ。で、下の方にかっこして(実際には地域の……
(実際には地域の感染状況や児童生徒や学校の実状に応じて各自治体及び学校で判断)って要するに、区や学校が決めるんじゃん。全てがうまくいって、全員の学力も素晴らしく一律に高くて、ちゃんとITCやモノがあって、先生も全て整ってる学校のイメージ。「実際とは異なる場合があります」かな?
この文書で見ると、6月の第1週は、「学級活動を中心とした学級づくりを重視し、落ち着いて学習できる環境を形成」って書いてありますけど、どうですか?
ない。そんなことやってる暇ない。
あなたの文科省の計画に対する感想は、ずいぶん勇ましく批判めいてるけど、自分は先生に話に行くことすらできないんじゃ……。
うるさいなあ。
生徒同士でそういう話もしないっていうのは、よろしくないんじゃないのか?
それは、うんまあ、部活どうするんですかって話は聞くよ。今度、顧問の先生の授業のとき、軽く。
それはいいね。
でもさ、みんな、そこまで深刻じゃないじゃんって思ってる節があるんだけど。なんか、2年生の3月で時が止まってる気がする。
というと?
この4ヶ月間くらいの間に、コロナがあるのは当たり前になっちゃって。部活がないのも、行事がないのも、学校がずっと休校で、その後どうなるのか説明がないのも、とりあえず授業始めますって状況も、なんて言ったらいいのかな、まあ、当然じゃない?みたいな。
でもそれは前にも言った通り、津波がきたら死ぬパターンじゃない?
私だけじゃなくて、たぶん、みんな、これってやばいんじゃないとも思ってるんだけど、でも、しょうがなくない?みたいな。別に国家の危機とかじゃないし、とか。
十分な危機だよ
たとえば今の香港とかはさ、誰の目から見ても明らかにやばいから、中学生だって意思表明に動くけど。別に、部活がないからって死ぬわけじゃないし、受験勉強をあんまりできなくて高校受験に落ちたからって死ぬわけじゃないし。
香港も言論の自由が無くなったからといって死ぬわけじゃないよ。香港が危機っていうより、もっと自分たちの危機だと思ってると思うよ、彼らは。
危機なんて、ごたいそうな言い方をしたら悪いような気がする。
香港の中高生がデモをしてるのは、「たいそう」に見えるかもしれないけど、でも君らだって、受験の指導を要請したり、部活再開のために動くとかしたら、はた目にはごたいそうに見えると思うよ。
っていうか、そういうふうに動く人たちは意識高い系に見える。
見えたら何か問題なの?
他人から見たら、ウチでさえ、意識高いように見えちゃうかも。
かも知れんけど、嫌?
嫌じゃないよ、別に。嫌じゃないけど、嫌って子もいるし。ただ私としては、意識高いとかじゃなくて、ちょっと調べてみようって気が起こっただけで、興味を持っただけですって言うかな。でも、周りの人があんまり興味なさそうだと、やっぱどうでもいいことなのかなって思っちゃったりするよね。
まあ、でもそれは、あと1~2ヶ月の勝負だな。
この会話の翌週、ひよこさんの中学校は部活は入部手続きを開始、その翌週に活動も再開。
そして7月1日には修学旅行中止の最終決定が報告されました。
(まだつづく?)
補足メモ
- ひよこさんの中学校は、6月に出席番号の偶奇別で分かれて授業再開。
- 第1週は週2日学年替わり半日。第2週は1・2年は週3日、3年は週4日半日。第3週は全学年週5日半日。第4週は1クラス1教室再開で机上簡易パーティション配布(2枚のプラ・ボードを組み合わせたもの)、給食も再開。この週は給食当番はなく教員が配膳、2品程度の簡易メニューでした。