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ソウルのクィアパレードから – 1ヘッダー画像

東アジアのクィア・アクティヴィズム 福永玄弥 その1

ソウルのクィアパレードから – 1

こうして警察署での泊まり込みのための「リレー」作戦が始まった。ソウル・クィアパレード組織委員会は、ソウル市警察庁、南大門警察署、鍾路警察署の3箇所の24時間シフト表を作成。フェイスブックやツイッター、カカオトークなどのSNSを活用し、人が足りない場所と時間帯を即座にアップデートする仕組みをつくった。ボランティアは適宜アップデートされる表の空いているところにエントリーして、現場に赴くという流れである。

私も計4回サポートに赴いた。ボランティアの年齢層は曜日や時間帯によってさまざまだったが、私が確認したかぎりでは8割近くを20代前半が占めていた。3箇所の申請待機所に参加したボランティアの数は4月27日の5名が最少(午前9~11時の鍾路警察署)、4月30日の16名(午後1時半~4時、同)が最多であった。
この4月30日が平日昼過ぎにもかかわらずボランティが多かったのには理由がある。午前6時30分ごろ、南大門警察署でもみ合いが起きたのである。

待機所では先着順に椅子に座るのだが、申請順1位に座っていたボランティアが交代に席を立った瞬間、2位に座っていた「ある保守団体」のメンバーが席を横取りしようと突き飛ばし、倒れたボランティアが怪我を負ったのだ(ソウル・クィア文化祭[SQCF]のサイト記事を参照「4月30日6時30分、緊迫したソウル南大門警察署の状況を共有」)。警察の介入でトラブルは収まったが、ツイッターやフェイスブックの報告に危機感を抱いたボランティアたちが、こぞって現場に赴いたのである。

正午過ぎ、私はひとが足りないという鍾路警察署に向かった。小さな待機所から溢れたボランティアたちの姿があった。集まっていた16名は全員が10代か20代で、ほとんどが大学生だった。早朝の南大門警察署でのトラブルは落着していたこともあって、持ち込んだ英語の課題を誰かが手伝ったり、お菓子を食べながら雑談したりといった和気あいあいとした光景が見られた。

私が滞在した午後1時半から4時には新聞社やオンラインニュースの記者の姿も見られた。パレード組織委員会のツイッターを見て駆けつけたという。あるネットニュースの記者は「私たちは大手の保守的なマスメディアとちがって、クィアパレードを応援する気持ちをもって取材をしている」と言う(後日掲載された記事:イーデイリー「集会申告しようともみ合いに… 一ヶ月前から始まったクィア・フェスティバルの争い」)。
また、ある大学生は別の記者の取材に対して、十代の性的少数者たちの生存困難な社会状況について熱心に語っていた。かれは、家族との不和などによって行き場を失った青少年の性的少数者に「居場所」を提供するNGOでボランティアをしているという。

多数のボランティアを動員した警察署での「リレー」は3箇所いずれの警察署でも1位の椅子を確保しつづけて集会申告を果たすことができた。パレード組織委員会によると、オンライン上で申請して「リレー」に参加したボランティアは計385名、申請なしで現場を訪れたひとを含むと400名を超えるという(SQFCサイトの記事)。
ツイッターやフェイスブックなどのSNSを活用したリアルタイムの情報共有がボランティアの動員を実現し、その結果、〈保守勢力〉の妨害工作を押さえ込むことができた。
4月30日に南大門警察署に駆けつけた20代半ばのあるボランティアは、「これまでパレードには参加する勇気がなかったけど、ヘイト勢力から暴力を受けたというツイートを見た瞬間、怒りが湧いてきてベッドから飛び起きて警察署に向かった」と語った。

韓国では他の社会運動や市民運動もSNSを積極的に活用しているが、クィア・アクティヴィズムはより戦略的にオンライン・ネットワークを駆使している。

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