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東アジアのクィア・アクティヴィズム 福永玄弥 その1

ソウルのクィアパレードから – 1

国民日報は、単一の教会として世界最大の規模を誇るとされる汝矣島純福音教会を発行母体とする新聞メディアだが、クィアパレードに対しても批判的な記事を数多く掲載してきた。一例を挙げると、「ゲイ」による「露出」で溢れる「淫乱的で不健全な」ソウル・クィアパレードに対しては「多くの同性愛者たちも……嫌悪感を感じ、法的・道徳的に問題があると考えている」とする「独自の調査結果」があるとし、さらにはパレード団体にソウル市庁広場の使用を許可したソウル市に対しても「ソウル市民の意見を反映していない」などと批判を加えている(『国民日報ミッションライフ』2017年6月12日、「同性愛者たちもクィア・フェスティバルに反対しているが……ソウル市、市民の意見を反映しない広場運営委員会に責任転嫁し、イベント許可の動き」)。

「親米反共」イデオロギーに依拠した大韓民国ナショナリズムを基盤とするプロテスタント右派にとって、性的少数者――とりわけゲイ男性――は、大韓民国を内部から崩壊させる「国家の敵」とみなされている。かれらがしばしばもちいる「従北ゲイ(종북 게이:「北」に従う「ゲイ」)」というヘイト表現が、そうした文脈をよく表している。イ・ヨン監督のドキュメンタリー映画に登場するあるプロテスタント右派活動家はこう語る。

同性愛を支持する勢力は……「国を滅ぼす」……。(かれらは)国内の対立を煽るのが好きなのです。……誰のため? 北にいる太った人のためでしょう。……同性愛イコール左派、そして従北勢力です。……(かれらを)を駆除してこの国を立て直しましょう。主よ 主よ!」(이영2015)

韓国における性的少数者に対するヘイト攻撃は、冷戦時代に形成された親米反共イデオロギーや大韓民国ナショナリズムを底流としながら、近年の国内外での性的少数者をめぐる政治状況の変化に対する危機感によって駆動されている。かくして、性的少数者の社会運動として韓国国内で最大規模の動員を誇るソウル・クィアパレードは、プロテスタント右派にとっては見過ごすことのできない「敵」とされ、ヘイト攻撃の対象となったのである。

参考文献・資料

  • 강태경(2019) 축제 속 우리는 어떤 이야기의 일부인가?: 퀴어문화축제 담론의 형성과
    변이, 2019年5月21日講演(낙원상가 청어람홀)
  • イ・ヨン(이영)監督の『불온한 당신』(2015年、フェミニズム・ビデオ・アクティビズムWOM制作)は、『不穏なあなた』として2018年11月10日に近畿大学で上映された。「レズビアン」や「トランスジェンダー」という英語由来の言葉が韓国に入ってくる以前の時代を生きた「ズボンさん」(1945年生まれ)の口述史を中心に、韓国のクィア・アクティヴィズムと〈保守勢力〉との攻防を描いたドキュメンタリー。
  • SOGI법정책연구회(2014)『한국의 LGBTI 인권현황 2013 성적지향 성별정체성법정책연구회 연간보고서』
  • 趙慶喜(2018a)「裏切られた多文化主義:韓国における難民嫌悪をめぐる小考」『現代思想』
    2018年8月号、Kindle版No.2689-2988.
  • 趙慶喜(2018b)「韓国における女性嫌悪と情動の政治」『社会情報学』第6巻3号、35-47.
  • Kim Nami (2018) The Gendered Politics of the Korean Protestant Right (eBook),Palgrave,Macmillan.

写真はすべて筆者提供

ふくながげんや クィア・スタディーズ、社会学、地域研究(日本、台湾、中国、韓国)

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