『ひらけ!モトム』によせて
だから、ぼくは問い続けたいと思った
第一に、なぜ生きられないのか/生きさせないのか、どうしたら、ともに、生きていけるのか、問い続けること。
第二に、同じものの異なる側面として、自らよりよい社会を築いていくことと、豊かな人生とこころをかたちづくっていくこと。
第三に、無自覚に他者に刃を向ける自分自身の健常者性と暴力性を問い続けること。声を抹殺するのではなくともに発し、暴力の根を辿ること。
いま振り返れば、これらの交わる点として、冒頭の選択があったのだろうと思う。
島根あさひ社会復帰促進センターの取り組みは、受刑者の罪と加害に向き合い、加害者のなかの被害に向き合うだけでなく、刑務所そのものの在り方を変えていくことを通じて、よりよい社会を築いていく試みでもある、とぼくは理解している。
その決断をしたとき、ぼくはこれほど言語化できていたわけではなかった。大学院の講義で概要を聞き、『プリズンサークル』という映画を観て、ただただ惹きつけられたのだった。*5
具体的にどんなところで、どんな取り組みをしているのか、そんなに刑務所についての情報があるわけでもなかった。
そしてまだ、ぼくは働いているわけでもない。実際に働いてみなければ、経験してみなければ、わからないことがきっとたくさんある。
どんな出会いが、どんな景色が待っているのだろう。
どんなふうに感じ、どんなことを考えるのだろう。
そのときぼくには何ができるのだろう。
目を背けることなく、そこから見えてくるものを大切にしていきたい。
何のために生まれてきたのか。
何のために今まで生きてきたのか。
ぼく自身に問いかけながら。
*5 映画「プリズン・サークル」公式サイト参照。映画レビュー(林香里氏「ドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」の攪乱」@出版舎ジグサイト)はこちら。
追加情報:坂上香監督の著書『プリズン・サークル』は岩波書店より近日刊行。「人は、ひとりでは罪と向き合えない。日本初となる刑務所内での長期撮影、一〇年超の取材がここに結実」(版元サイトより。同サイトに28頁分の試し読みページリンクあり)