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『ひらけ!モトム』によせて

2023年5月、広島~江田島 世田谷に暮らす団塊世代の重度身体障害者・上田さんの旅

その1

モトム、故郷に帰る

広島平和記念資料館 編

5月7日(日) 広島:雨のちやや強い雨

 

ほぼ全館を回り終えて、のどがかわいたモトムさんの希望で、雨を眺めながら休憩。出口脇のカフェスペース。周りは、どうやらインド系のツアー客たちで、何人かは抹茶ソフトクリームを自撮りしつつ「マッチャ!」と楽しんでいた。
ツルさんの言葉。

 

「展示の最後は、核兵器廃絶をめざすメッセージだったけど、このトーンはそのうちに差し替えになってしまうのかもしれないね」「全体のトーンはほぼ悲しみ、どうして怒りの表明がないんだろう」

未曾有の残虐な殺人兵器を使ったことに対する怒り。
原爆投下の効果がはっきりわかるよう、投下までは空襲を控えるという信じられない冷徹さ。人が暮らす街の上に落として破壊の効果を図る目的の実験、狙いを定めた中洲にかかるT字型の両岸には橋を行き来して暮らしを営む人びとがいることが、わかっていながら、それを目標とする破壊。悲しみ、ではなくて、猛烈な怒りがあって当然ではないのか。自分たちの国が招いた戦争で、その要の軍都・広島、軍港・宇品だったからこそ標的となった。だから、そこで怒りが立ちすくむ?

……というような話をしながら、モトムさんは氷でぬるめたホットティーをストローで、ツルさんと私はホットコーヒーを、しばしすすった。

 

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