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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

その3 Ching
(中学6年生,18歲 )

映画の中の、ヒロインのあるセリフが深く印象に残りました。
“I’m not homeless, I’m just houseless.”
(私はホームレスじゃない、ただのハウスレスよ。)

この言葉で、私は思わず今の香港の現状を思い出しました。この2年間、香港は加速度的に変化し、時代も変わり、環境も変わり、歴史すらもこっそり変えられています。「この家」を離れる人は増える一方です。香港の急速な変化のなか、前進と後退を共にした人も、1回も参加したことがない人も、誰もがここを離れて新たに身を寄せる別の場所を探しているのです。

香港はもはや安全な家ではない、と堅い意志で去る人もいれば、香港に絶望して家を捨てることを決心する人もいれば、再び戻ってくるために去る人もいます。香港社会から去って行った人々を批判する声も多く、私もその中の一人でした。

でも、改めて考えてみると、いったいどのくらいの人々が去らざるを得なかったのでしょう、どのくらいの人々が苦痛と忍耐を抱えて去ったのでしょう。TV番組「鏗鏘集」*4(香港コネクション)の《一人も欠けてはいけない》 のエピソードを見て以降、私も、去る気持ちの複雑さを自分のことのように感じています。

私たちは同じようにこの土地で育ち、同じ言語を話し、同じ空気を吸っています。香港は永遠に私たちの家なのです。政権に苦しめられ、元の姿がわからない状態になって も、その本来の姿は、長い時をかけて私たちの心の奥深くに刻まれています。それは私たちの集合的記憶です。時代がどのように変化し、歴史がどのように洗い流されても、私たちは決して忘れません。

人は人々から忘れ去られたときに本当に死ぬ、と言う人がいます。今は何もできず、強権と戦うのは難しいかもしれませんが、誰かがそれを覚えていて、誰かがそれを忘れていない限り、これからまだ先が長いのです。将来への希望はまだ生きています。

映画のヒロインは物理的な家を持っていませんが、自分の精神は世界の至る所に存在するし、天と地が自分の家だ、と信じています。道行きは困難で辛くても、暑い夏や寒い冬で何回苦しんでも、夜明けは必ず来る。果てしない大地を目にするとき、その大気は自由に満ちているのです。

 

*4 「鏗鏘集」(Hong Kong Connection)は、香港の公共放送局RTHKの30分ドキュメンタリー番組。《一個都不能少》(Not One Less)は2020年12月放送。移民を決意したある家族を追う。英語字幕付き動画はこちら。

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