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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

その5 Maruko Chan
(公務員,28歲)

(つづき)

それでも、2019年以来起こった事件、特に7月21日*1、8月31日*2などの光景は、まだ大勢の人の心の底にくすぶっていて、だからこそ、今も力がある限り、選択肢があるかぎり、怒りを表明する機会を逃さないのです――食事をするなら黄色い(民主派)店に行き、テレビを見でもTVB(政府よりの放送局)は見ず、政府から圧力を掛けられる企業を全力で応援するのです(アブタイ[AbouThai]*3、アップル・デイリー*4など)。でもときどき、こんな生活に疲れを感じてしまいます。特に、なかなか頑固な友だちと一緒にいる時には。

先月、仲良しの友だち3人で夕食を共にしました。

2012年に大学の寮で知り合い、学年も学部も違うけれど、すぐに意気投合し、卒業後もしばしば会っています。友だちAはとても「黄色」な女子です。もちろん私も黄色な店を選びました(食べログでの評判がいいとは言えないけど)。

食事中、友だちBは彼女がこのあいだ彼氏とケンカした、と話してくれました。彼は、香港の社会運動がこのまま沈静化するのを見ていたくないと、毎日さまざまなYoutubeやサイトで、志がある人とデモの継続を議論していて、友だちBにもその話をしようとするのです。でも、友だちBは看護師で、仕事が終ると疲れ果てていて、彼とはただ、とりとめのない気楽な話をしたいと思っているのです。残念なことに、彼のほうは生活の話などしたいと思っていなくて、「闘いにおける常識」を学ぶよう押しつけてきたので、とうとう彼女は怒ってしまいました。

私はそれほど「黄色」ではないので、「やり過ぎだよね、闘うことは大事だけれど、 いつも自分と他人にそれを押しつけるのはいけないよね…」と彼女に同意するより早く、友だちAがこう言いました。

「わかる!私もこれで彼氏ともめたの。でも私は、彼に闘い続ける気が無いことを責める側なんだよね…」。

そのあとの数秒間、私たち3人は立ち止まりました。おそらく、こんなことを考えながら:どうすれば、うっかり相手を気まずくさせることなく、この話を続けることができるだろう?

そうして、私たち3人は、おちついてこの議題について自分の意見を言いました。しばらくしても意見は一致しなかったので、私たちはこの話題を切り上げました。そのあと、最近バズっているMirror*5に話題が移りました。

あの夜の私たちは、昔ほどに言いたい放題のおしゃべりを楽しんだとは言えなかった。そう感じたのは私だけか、彼女たちもそう感じたのか、それはわからないけれど。政治が、私たちの間に見えない壁を作ったのでしょうか?

*1  MTR元朗駅で起こった、白Tシャツ集団による電車内の乗客への暴行襲擊事件。

*2  MTR太子駅でおこった、香港警察によるデモ参加者や一般市民への暴行事件。

*3  アブタイライフデパートの創業者リン・ジンナン(林景楠)は民主派による立法会選挙予備選に参加し、国安法違反の容疑で起訴された。市民は支援のため行列をなしてアブタイに買い物に訪れた。関連記事:眾新聞 CitizenNews(記者・鄭啟智, 最後更新: 2021-04-09 19:55:14)

*4 リンゴ日報(蘋果日報)は親民主派・反政府・反北京を打ち出す大衆紙だったが、2021年に創業者の黎智英ほか経営トップが国安法違反で逮捕され、資産も凍結、紙・オンラインともに発行停止、廃刊となった。

*5 香港の新興テレビ局ViuTVの公開オーディションから結成された12人組のボーイズグループ。2021年に大ブレイクした。本連載の小栗宏太氏の「歌は消えないー暗い時代の香港ポップス」の記述も参照。

 

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