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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

その5 Maruko Chan
(公務員,28歲)

(つづき)

「政治を語れば、気持ちを損ねる」(講政治傷感情)とよく言われています。この社会運動が起こってから、どんなにたくさんの感情や関係が、政治の刃で切断されてきたことでしょう。

大学時代、同じサークルに所属していた友人が警部補を務めています。運動がはじまるとすぐに、彼は、サークルのメンバーに WhatsApp のグループを退会させられました。一部のサークルの友人は彼のFacebookまで削除し、Instagram のフォローもやめました。

もう一人、警部補を務めている中学校の先輩は、運動が起こる前は、自分の妻や生まれたばかりの子どもの写真を Facebook でシェアして楽しんでいました。社会運動以降、彼はもう投稿しません。ある人の彼氏が「前線」のデモ隊の女性と恋に落ち、何年も付き合っていた元カノと別れた、という話を聞きました。小学校の同窓生は、父親との政治的な意見の対立のせいで、もう何ヶ月も友人の家に泊まっています。彼女は小さいころは、お父さんのことが一番大好きだったの に。

こんな話を聞くたび、自分自身は家族や同僚、友だちと、政治的に対立して悩むことはあまりないので、それはありがたいことなんだな、と実感します。

私も夫も公務員だからかもしれませんね。政府で何年も働くうちに、友だちも公務員が多くなったし、みんな生活の安定を第一に求めていて、いつ家を買い、いつ子どもを産むか、という話題が繰り返されるのです。

政治的な話になると、みんな、ほかの香港人とおなじように、政府や官僚の欠陥をいろいろと批判しますが、ほとんどの人は口先だけで行動が伴わず、オフィスに戻ったら、また仕事に没頭します。高給を遅延なくうけとるために悪人に仕え、悪事を働いていることに、嫌気がさすこともあります。ふと、慣れ親しんだ環境から抜け、何かを変えたくなる時もあります。とはいえ、この安定した生活に満足してもいるのです。

もしも2019年の社会運動が起きていなかったとしたら、私はいまごろ、どんなことを思っていたでしょう。ほかの香港人たちは、どんな生活を送っていたでしょう。

残念ながら、この世界にタイムマシンはまだないのです。未来の香港に行って、自分がどうなるのかを見てくることできません。過去の香港に行って、起きてしまった歴史を止めることもできません。でも、信じていることがあります。それは、希望をもち、毎日を前向きに過ごすなら、きっと未来は明るいということ。私たちでなければ、次の世代が、その未来を見届けるのだから。


Maruko Chan中文原文
翻訳者からのメッセージ(エスター)
5月35日――存在するはずの日(阿古智子)+ 2020年1月 旺角のとある書店にて(Age.I)

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