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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

5月35日――存在するはずの日

阿古智子

池袋の東京芸術劇場で『5月35日』*1を観た。5月35日――そんな日があるわけがない。その存在しないはずの日はつまり、天安門事件が起きた6月4日の隠語である。「六四」は中国ではタブーの言葉であり、この「敏感な日」とその前後1週間ほどは、天安門広場とその周辺では警戒体制が敷かれる。事件に関係した人やその家族、記録や報道、追悼活動などに関わる人に対する尾行や監視が強化され、「旅行に行きなさい」と、北京から離れるよう指示されることもある。

当時、天安門広場で「言論の自由」を訴えてハンガーストライキをしていた友人の浦志強*2 も毎年のように「旅行に行かされ」ており、広場や広場周辺で犠牲になった仲間たちを北京で追悼することができない。

浦志強は六四の直前に体調不良で病院に運ばれたため、天安門事件の関連で逮捕されることはなかったが、運動に参加した経歴が問題となり、目指していた学者への道は閉ざされた。その後、家族を養うために弁護士になり、出版を差し止められた作家、ネットに政治家の汚職や不正を暴いたり、批判を行ったりしために有罪とされた人たちなど、「言論の罪」に問われた人たちの弁護を担当してきた。

しかし、2014年には本人がネット上で共産党や政府のウイグル民族政策などを批判したことが「民族の団結を破壊し、社会に悪影響を与えた」として、「公共秩序騒乱罪」で懲役3年(執行猶予3年)の有罪となり、弁護士資格を剥奪された。

浦志強のような中国のいわゆる「人権派弁護士」らの支援の中心となっていたのが、香港の弁護士や活動家たちだ。彼らは「香港市民支援愛国民主運動聯合会」(支聯会)のメンバーとしても活動し、30年にわたり、香港で天安門事件の追悼集会を毎年開催してきた。しかし、彼らの声も今は聞くことができない。追悼集会を組織し、人々に参加を呼びかけたなどとして、刑務所に送られているからだ。以前は天安門事件についても語ることができた香港の人々から、日に日に自由が奪われていく。

『5月35日』は香港の人気劇作家・荘梅岩による戯曲であるが、今は香港では上演することができない。

息子を天安門事件で亡くした『5月35日』の主人公の夫婦は、その事実さえ隠し通して生きていくしかなかった。最愛の息子がなぜ、どのようにして亡くなったのか。そんな基本的なことさえ明らかにすることができないまま、長い歳月が流れた。

事実を知りたい。問いを持ち、それについて考え、同じような意識を持つ人たちと分かち合いたい。そうした自然な感情や思いを押し殺して生きていくのなら、人として「生きている」と言えるのか。

自分がどうありたいかを考え、悩むMaruko Chanやエスターさんのような香港の若い人たち、中国で迫害の対象となっている弁護士や活動家の友人たち、刑務所にいる香港の友人たちを想いながら、今年ももうすぐ六四を迎える。

*1 Pカンパニー第35回公演『5月35日』。戯曲:莊梅岩/翻訳:マギー・チャン、石原燃/演出:松本祐子/出演:竹下景子、林次樹ほか。2022年4月20日~24日、東京芸術劇場シアターウエスト。

*2 阿古智子「「言論の自由」のために闘う 中国の弁護士・浦志強」(WEDGE Infinity, 2012年7月23日)

 

■中文■  5月35日--應要存在的日子      阿古智子(訳・Esther)

我在池袋的東京藝術劇場觀賞了《5月35日》這套舞台劇。5月35日――這個日子根本就不可能存在,也就是說,它是發生天安門事件的6月4日的隱喻。「六四」在中國是禁忌的詞彙,在這「敏感日子」的前後約一星期,天安門廣場和周邊的一帶都會戒備森嚴。直接牽涉在事件內的人及其親屬,與記錄,報導,進行悼念活動等相關的人,針對他們的跟蹤和監視都被加強,「去旅行吧」這種要求離開北京的指示也會出現 。

當時,於天安門廣場爭取言論自由而絕食的朋友浦志強,也是每年「被旅行」,無法在北京悼念於廣場及廣場附近犧牲的同伴。

浦志強在六四前夕因身體不適而被送院,故此沒有就天安門事件而被捕。然而,參與過八九民運的經歷成為了問題,曾經視為目標的學者之路被堵上了。其後,為了養活家人,他當上了律師,替被禁止出版的作家,在網上揭發或批評政治家貪污舞弊而被判有罪的人等「因言入罪」的人作辯護。

然而,他本人在2014年於網上批評共產黨及政府對待維吾爾族的政策,被指「煽動民族仇恨、破壞社會秩序」,以「尋釁滋事罪」被判處三年有期徒刑,緩刑三年,並吊銷了律師的資格。

向浦志強這樣的中國「維權律師」提供支援的核心人物,是香港的律師與社運人士。他們以支聯會成員的身份活躍,30年間,在香港一直每年舉行天安門事件的悼念集會。然而,他們的聲音如今也無法聽見了。因為他們因組織悼念集會,呼籲人們參與集會等行為,被關在牢獄之中。以前就著天安門事件可以暢所欲言的香港人,自由正在日復一日地從他們手中被剝奪。

「5月35日」是香港知名編劇莊梅岩的舞台劇作品,但現今在香港卻無法上演。

主角夫婦的兒子在天安門事件中身亡,連這個事實都只能一直隱瞞,繼續活下去。最愛的兒子是為何,是如何失去了生命的?如此基本的事情都不能弄清,就這樣渡過了漫長的歲月。

渴望知道事實,抱著疑問,思考相關的問題,想與有同樣意識的人互相分享與分擔。如果扼殺了這種自然的感情和思想去過生活的話,作為一個人,還可以稱得上是「活著」嗎?

在思考著希望如何自處,惦念著如Maruko Chan和Esther般煩惱的香港年輕人,於中國成為了被迫害對象的律師和維權人士朋友,在獄中的香港朋友的同時,今年又即將迎來六四了。

 

2019年、香港の街並みに出現した落書きという傷。それらは人々が抱える「心の傷」の表象であったように思う。街並みの何もかもを直視できなくなって不意に逃げ込んだ書店。書架に並ぶ『1984』の姿は私にひとときの安らぎを与えた。まだ、表現の自由はあるのだと…
2022年現在、報道を通してしか知ることができないが街並みの傷は癒えて久しい。しかし、見えない傷は「見えない壁」により隔離され、癒えることも癒されることもなく生傷であり続ける。―― Age.I

撮影:Age.I 2001年生まれ。小学生の頃にいじめを受け不登校に。また、これが原因となりPTSDに罹患。以来、自分自身を苦しめる「暴力とはなにか」を問い続ける。2019年 民主化運動下の香港には2度の渡航、計3週間の滞在。

 

■中文■ 2020年1月 於旺角某書店 (訳・Esther)

2019年,在香港街頭出現了稱作塗鴉的傷痕。我想,那些彷彿是人們抱著的「內心傷痕」的表象。變得無法直視街上的一切後,這是一家不經意下逃進的書店。在書架上擺放著的《1984》給了我一時的平靜—表現的自由還是有的吧……
2022年的今日,雖然只能透過報導得悉,但街頭的傷痕早已治癒。然而,看不到的傷痕卻被「看不到的牆」所阻隔,沒有治癒也沒有被治癒,以最初剛受傷的狀態持續。―― Age.I

攝影:Age. I 2001年出生。小學時期被欺凌,其後拒絕回校上課,並因而罹患PTSD。自此以來,不斷探究折磨自己的「暴力」到底是甚麼。在2019年兩度前往民主化運動下的香港,合共逗留了三星期。


Esther エスター 日本留学経験あり、香港在住

あこともこ 現代中国研究、社会学、比較教育学

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