難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-
その8 ZC
(建築/測量/景観/都市計画専門職 28 歳, パートナーと同居中)
(つづき)
――じゃあ、君は、自分が自分にとっての理想の大人になったと思う?
「いいや。」
「さっき自分で言ったことと矛盾するかもしれないけれど…… 自分の理想の、大人のほん とうの理想のあり方は、自分自身でこの社会を変えること、この世界を変えること、なん だ。そして俺は、自分にその能力がないと気づいたんだ。特に 2019 年以降は、無力感はど んどん強くなっていったから、だから俺は、自分の理想の大人には、なれていないんだ。」
「理想では、俺はこの社会や世界を変えるために、何かしらの行動を起こしたいんだ。自分 自身でそれをやってみたこともある。当時は全力で努力していたわけではなかった、ほんと うに試すなら、もっともっと尽力することもできたのだけれど、結局はある一定程度の努力 だった。でも、なんの成果も得られなかった。この世界は変わらないままだ。」
――君は、これから 10 年後の自分に、どんなふうに期待している?
「それはいい質問だね… 10 年後… (ため息) … 正直に言って、どう答えていいのか、わか らない……」
「10 年後…… 俺はこの社会が求めるような大人になると思う。つまり、定時の労働時間は 働いて、お金を稼ぎ、妻子を養うような。10 年後の俺はそうなっていると思うけれど、で も、俺がそうなりたいと思っている、ということではないよ。」
「俺がなりたい 10 年後の自分は…… ちょうどさっき言ったような、10 年前に自分がなり たかった自分、それと、まったく同じままなんだ。」
――じゃあ、いまこの時点で、君の最大の願いは?
「例の 8 文字スローガン*3、と言いたいところだけれど、本当にそれが最大の願いかどう か、ちょっと考えさせて……」
*3 編集注 : 本連載掲載の画像にその 8 文字を探すことができる(2019 年 9 月 8 日、大埔のレノンウォール:撮影・倉田明子)https://jigjig.com/serialization/hk_catproject/hk_cat_06/4/
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