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春 待つ こころ 障碍の児の思春期、ノート その1 堀切和雅

穏やかでいるしかないということもある。
障碍は重く、そこでの目標は「治る」ということでは残念ながらあり得ない。
できれば少しでも「軽く」。それは本人や親にとっての願いでもあるが、実は社会全体に要請されているむずかしくしかし広汎な目標とも係わっている。

ひさしぶりかも知れないなあ。
この体育館・講堂には実にさまざまな姿勢や体勢の子たちがいて、春浅い陽射しは高窓から射し「生きている」という湯気のようなものがたゆたうのが見える。世の中がいまのところ「奇声」としか呼ぶ言葉を持たない声もいろいろな方向に交差し合う。かぼそく、あるいは力強く。

そうか、ではどんな言葉でその声たちを呼ぼうか、僕は。そんなことを考えている。

そして娘の響がこちらを振り返ったそのとき、おどろくべきことが起きる。それは実に、父としての僕には初めてのことだった。

 

 

 

ほりきり かずまさ はじめ編集者、つぎに教員になり、そうしながらも劇団「月夜果実店」で脚本を書き、演出をしてきた。いまや劇団はリモートで制作される空想のオペラ団・ラジオ団になっている。書いた本に『三〇代が読んだ「わだつみ」』『「30代後半」という病気』『娘よ、ゆっくり大きくなりなさい』『なぜ友は死に 俺は生きたのか』など。

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