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春 待つ こころ 障碍の児の思春期、ノート その5 堀切和雅

それから数年後、響は生まれた。今日も空が青い。

生まれて数ヶ月経っても身体はふにゃふにゃというくらいに柔らかく、しかしいつも笑顔でそこは安心な響をピクニックマットに寝かせて、まわりをクッションやらケットやらで安定させて首も支えてやって、3人は午後の陽を浴びる。

もともとの特徴でもあるだろうけどほとんどの時間都会の室内で育ってきたことを表すように、色白で、肌が透けるよう。一方で髪はめりめりと音がしそうな艶やかな黒髪で、生まれた時から豊か。

なぜなのか、遺伝子に何らかの異常を持つ子に、たまさか髪や眉の濃い子がいる。とこれは後に気づくことになる。当事者の親の目での印象でしかなく、そこに有意な関係があるのか専門の医師などに聞いたことはないのだが。

響はまだ寝た姿勢しか取れないからいつも空を、僕たちを見上げている。響のその瞳を僕たちは覗き込む。幾度も。語りかけるつもりで。
すると瞳のみずうみからさざ波の笑顔がひろがる。さざ波は僕らの表情をも渡っていく。

みずうみに映る空の深みを、つい見上げる。幸福だ。
これからどんなことが起こるとしても。

それもその時にも想っていたことだろうか。いまだから想うことだろうか。前者だ、という気がする。いま。

さて、次回は冒頭の、高校への入学式の時間に戻ろう。

 

ほりきり かずまさ はじめ編集者、つぎに教員になり、そうしながらも劇団「月夜果実店」で脚本を書き、演出をしてきた。いまや劇団はリモートで制作される空想のオペラ団・ラジオ団になっている。書いた本に『三〇代が読んだ「わだつみ」』『「30代後半」という病気』『娘よ、ゆっくり大きくなりなさい』『なぜ友は死に 俺は生きたのか』など。

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