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春 待つ こころ 障碍の児の思春期、ノート 堀切和雅



大変です

乳児発症のミトコンドリア病では、低身長の症状が出ることも多いと言うが、響の体格はむしろ大きめ。いま4歳半だが、身長は109センチで体重は17キロくらい。

だけど振る舞いはせいぜい2歳児で言うことを全く聞かないから、一日付き合うのは大変。
「着替えようか」
「やだ!」
「ご飯は?」
「やだ、遊ぶ!」
歯磨きも自分ではできない(遊びで歯ブラシを口に突っ込むだけ。ついでに洗面所のすべての物品を投げ散らかす)から、そのたびに押さえつけてでも磨いてやることになる。

前回の連載で「独り遊びができない」と書いたが、それも相変わらずで、ピクニックごっこでは一緒に座って食べるマネをしてあげなくては満足しないし、積み木を積むにも手伝いが要る。十秒でも放っておくと「ママ! パパ!」と呼び始め、行ってやらないと泣き叫ぶことになる。

でもふと、10分くらい一人で静かに絵本を見ているときなどがあって、そんな限られた時間に、僕ら夫婦は息をつく。

僕はいま家でする仕事が主なので、2人で渾然一体となりながら響の相手をしているのだが(今も響に肘を引っ張られながら文字を打っている)、やはり負担は圧倒的に、連れ合いの陽子の方にかかってくる。そして陽子は、子育てに走り続けてついに疲れが出たのか、昨年来どうも体調が悪い。いま、ソファで寝ている陽子に、響がドシンと乗っかりに行った。

ふつう、3歳くらいになると、子育ては少し楽になる、と聞く。それで人は長子が3つか4つになると第2子を考えたりもするのだが、うちはそうは行かない。

陽子は言う。
「3年間は突っ走ってきたのだけれど、4年目になって、休む余裕がなくって、ついに倒れたという感じ。4年はきつい。でもこれからも、基本的にはこれが続くわけよね……」

微熱と倦怠感が続いた彼女はついに「慢性疲労症候群」と診断され、それでいまもソファで寝ているわけ。

仕事しながら響をかまう僕の分担責任も、いや増す。
あれー今日ももう夕ご飯の準備の時間だ。
陽子起きられる? それとも今日も宅配ピザでもとる?

 


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