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春 待つ こころ 障碍の児の思春期、ノート 堀切和雅


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阿部先生の話 ①

芝崎妙子先生が産休・育休に入られたのをきっかけに代わっていただいたOT(作業療法士)の阿部浩美先生だが、響がひどく懐いてしまったので、芝崎先生復帰後もそのまま続けて頂いていた。ところが4月から阿部先生が国際医療福祉大学で作業療法を指導する教員になられることになったので、いったんお別れとなる。
お話を聞いてみた。

──OTになられたのは?

「とにかく資格の取れるところ、というのでたまたま引っかかったのが都立医療短大で、もう選択の余地なく。でも今となってはすごく良かった。この仕事を楽しいな、って思える。子どもが楽しそうにしてくれたり、何かいままでできなかったことが、できるようになったり」

──表出の手段が少ない子が多いわけですが、こちらが一歩踏み込みさえすればかなり分かりますよね。たいていの人にはそれが視えていない。注視しないから。もちろん親には分かる。OTもそうですね。

「OTになって16年ですが、今だからそう思えることもあるんですね。1年や2年では変化がなかなか分からないお子さんでも、長い月日を振り返ってみて、『変わったねえ』と言い合えるんですよ、お母さんたちと」

「始めたころは不安でした。お母さんたちが将来のことを心配されて、『どうなっていくんでしょう?』と聞かれても、ちゃんと答えられなかった。でも今は『成長していきますよ』と答える信念を持てた」

──健常な子どもは放っておいても身体や動作はどんどん成長するけど、障碍があるとそれがゆっくりであるだけに、一歩一歩がよく視えますよね。響を見ててもそう。どんなに重度のお子さんでも、何らかの変化はする?

「します。ただ、表出が、例えば笑うということではなくて微妙な緊張の変化だったり、ちょっと表情が和らぐことだとか。もちろんいいサインだけではなくて、同じ働きかけでも好きな子どももいれば嫌いな子もいるから、変化の違いに気づくことも大切です」

──それに気がつかないと、本人にとっては嫌な訓練をしちゃうことになりますものね。

「本当に変化しているかひとりでは自信がないこともあります。そんなときは、周りの人や先輩に話して、共有しあっていくことで気づきが強化される。本当に変われると思って関わっていると、子どもも変わっていくんですね」

「続・歩くように 話すように 響くように」連載第30回より再録


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