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『見飽きるほどの虹』によせて

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『見飽きるほどの虹』によせて

巣ごもり!アイルランド 小さな村の暮らし
オンライン・トーク再録

ロックダウンのアイルランド

アイルランドのロックダウンが具体的にどんなものかというと、まず食品店や薬局を除く商店がすべて閉まり、教会のミサはオンライン。葬儀やウェディングは参列者が厳しく制限され、葬儀については多くの議論を呼びました。私の暮らす地域で最長老の女性が亡くなった時も、葬儀には参列が許されず、その代わりにご近所さんの呼びかけで、彼女の自宅から霊柩車が出発する時間にみんなが道路に出て見送りをしました。

レストラン、カフェ、パブも閉まっているか、営業はしていても持ち帰りのみ。オフィスワークの人たちはすべて在宅ワーク。住居の訪問は禁止。食品調達など必要最低限の外出を除き、自宅から半径5キロ以上の外出は控えるよう要請され、多くの人たちが自宅で家族と過ごしています。会うのは散歩の時などに顔を合わせるご近所さんぐらいでしょうか。

フィークル村のメインストリート
人気のないフィークル村のメインストリート

家にばかりこもって太った人、外出もできず美容院も閉まっているので髪が伸び放題の人、男性はひげもじゃの人が増えました。

ウイルス対策の規制はEU諸国でも国によって異なりますが、アイルランドはEU圏で最も厳しい対策を取っている国だそうです。私見ですが、アイルランドは特有の歴史的な感情がコロナウイルス対策にも反映しているように感じます。歴史の中で何度も経験した死や苦しみに対する反射的なおそれ、です。

飢饉や迫害といった負の歴史を乗り越え生きてきたアイルランドの人々の、パンデミックへの警戒心はトップレベルです。それは政治にも表れ、国民によってそのまま共有されていると感じます。

ソーシャルディスタンス2Mを求める掲示
ソーシャルディスタンス2mを求める掲示.THE IRISH TIMES(Mon, Jun 15, 2020, 11:45)

昨年ヨーロッパ中でも最も多くの死者を出した隣国イギリスの情報は、頻繁に入ってきます。アイルランド島の一部である北アイルランドは事実上イギリスの領土なので、アイルランドは島国として対策を統一できないことが、再三問題視されてきました。対策の統一を呼びかける声の延長線上には、アイルランド統一(北アイルランド返還)をほのめかす議論も見え隠れし、さまざまな憶測が飛び交います。コロナウイルス対策もまた、政治的な駆け引きと力関係に利用されているのです。

アイルランドから見ていると、日本は感染者数が驚異的に少なく、規制も緩い。ソーシャルメディアなどで日本の友人たちの投稿を見ていると、友だちと外食をしていたり、音楽を演奏していたりして、ギャップに愕然とするばかりです。

幸いにも、アイルランド政府はコロナウイルスで職を失った国民への緊急の手当を早急に発効しました。2020年5月現在も、この手当で生活を補う国民がたくさんいます。観光業、飲食業、小売業、アーティストなど、職種に限らず、コロナウイルス規制によって収入がままならない人なら誰でも申請することができ、審査を経て受け取ることができます。これに関しては、政府はきちんと仕事をしてくれたと感じています。

しばしば変わる規制のために収入が左右される人も多いので、一時的に手当てを受け、規制緩和で働けるようになると手当からはずれ、ということを繰り返している人々もいます。そのほかにも、銀行ローン返済の一時休止や家賃のサポートなどもあります。

規制で最も打撃を受けているのは、芸術分野で働く人たちでしょう。フェスティバル、コンサートやパブセッション、対面式のレッスンなどができなくなり、伝統音楽のミュージシャンたちもまた、活動の機会を失ったままです。

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