『見飽きるほどの虹』によせて
巣ごもり!アイルランド 小さな村の暮らし
オンライン・トーク再録
パブなどのカジュアルな場所で、人々が音楽を演奏するための集まりを、セッションと呼んでいますが、私がロックダウン前に最後に参加したセッションは、2020年の3月頭。村のパブに遊びに行っていました。この時期からセッションが次々にキャンセルとなり、さらにはパブやカフェ、レストランが営業停止に追い込まれていきました。
夏場に食事を出すパブだけは営業を再開し、その時セッションが戻ってきたパブもちらほらありましたが、基本的にホストミュージシャンのみの演奏で飛び入り参加は不可。事実上、2020年3月から、今までのようなセッションはストップしたままです。
レストランを併設していない、いわゆるトラディショナルなパブは営業再開の許可が下りず、波紋を呼びました。食事を出すパブと出さないパブに何の違いがあるのか、という不満が爆発したのです。パブ店主たちが中心となり、「ローカルなビジネスをつぶす気か」と政府への抗議デモも起こりました。地方では、規制が緩和されても再オープンを断念するパブも多いと聞きます。今後のパブのありかたに、大きな影響を与えそうです。
ロックダウンの影響で、次第に楽器から離れてしまうミュージシャンもいるようです。しばらく前、夫でフィドル奏者のパットが、地元の州都エニスで友人にばったり会った時――毎週セッションのホストをしていたような腕のいいミュージシャンですが――、彼はもう1年以上弾いていない、と言っていたそうです。
音楽家たちに唯一のビジネスチャンスがあるとすれば、オンラインでしょうか。ズームレッスンやバーチャルコンサートなど、器用で野心のあるミュージシャンたちは積極的にこなしている様子です。でも、スクリーンを通した音楽の限界もすぐに見えてしまう。我が家では子どもたちがフィドルのレッスンをズームでやっているし、パットもオンラインで生徒さんを教えていますが、やはり対面式のレッスンに比べると得られるものは小さいです。
音楽は空間を共有し、同じ空気を呼吸しながら創り上げていくものだと思います。
いつ戻ってくるかは分かりませんが、みんなが昔のように集まり、音楽を楽しめる日を切望しています。
6月にはいっての、その後の経過です。
アイルランド政府は5月28日、ロックダウンの追加緩和を更新、6月2日宿泊施設の再開、7日に飲食店の屋外営業などの屋外娯楽施設、映画館も営業を再開すると公表。6月8日、首相のミホル・マーティンがTwitterでメッセージを発信しました。
生きた音楽を日常で共有できる場が、少しずつ戻ってきますように。
A big day for pubs and restaurants with the reopening of outdoor hospitality and thousands back at work.
55% of the population are now vaccinated with at least one dose – our Economic Recovery Plan unveils a pathway for recovery from this pandemic. pic.twitter.com/oNXOW9bVVA
— Micheál Martin (@MichealMartinTD) June 7, 2021
- 冒頭の写真は筆者の家のポニー、ディーノ
- 撮影は、別記のもの以外は筆者撮影
- IRISH TIMESの画像:Social distancing at Shelbourne Park, Dublin, ahead of the resumption of racing on June 15th. Photograph: ©INPHO/Laszlo Geczo
- タラケーリー・ジュニアバンドの写真は、アイルランド音楽家協会(Comhaltas Ceoltóirí Éireann)のご承諾をえて提供しています