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『見飽きるほどの虹』によせて 望月えりか

我が家に本が届くまで

すると、小一時間で今度は編集者さんから連絡が入り、アイルランドの宅配業者名が分かったとのこと。カスタマーサービスはダブリンにあり、電話で問い合わせもできるらしい。すると、一連の騒動を横で聞いていた我が夫が、「荷物がシャノン(私たちの暮らすクレア州にある町)まで来ているのなら、シャノンの集荷所に直接電話するほうが早い。僕が電話しよう」

音声アナウンスにつながることなく、集荷所で働く女性とさっそく電話で話しています。
「日本から来てる荷物でね、中に本が数冊入ってるんだけど。うん。住所はクレア州フィークル村云々…… 僕のワイフ宛ての荷物なんだよ。彼女の名前はエリカで、えーと、日本の名字が書いてあるのかO’Connor(オコナー)になってるのか分からないんだけど。あっ、見つけた?」

お客さまサービスセンターなどに電話をするといつも感じることですが、まるで友だち同士が話しているようなやりとりです。時には冗談を言ったり、お互いのプライベートな小話をはさむことも。マニュアル一貫でなく、どんな人とも円滑に会話を進められる器。とても気持ちのよいサービスです。

「この荷物、土曜日に運ばれたようだけど受取人不在で戻ってきてるわね。今日再度向かいますから、もしダブルチェックしたかったらバンの運転手と直接連絡を取ってくれる?」
「それが一番いいね。彼の携帯番号を教えてよ」
「はい、電話番号は086…… 運転手の名前はピーターだから」
「分かった、ピーターだね! じゃあ今から彼に連絡してみるよ、いろいろありがとう」
「どういたしまして。よい一日を過ごしてね!」

そして、ここからは夫とピーターさんのやりとり……
「あ、ピーターだね? 今シャノンのオフィスの女性に電話番号もらったんだけど。このエリアはよく知ってる?」
「どうもどうも。ああ知ってるよ、担当して長いからね。お宅の家はどの辺り?」
「ほら、今新しくビール工場ができたでしょう? その先の小さい道路を入って……」
「最初の家にベルギー人の女性が住んでるよね」
「そうそう! 彼女の家の次の家なんだよ。カトリーナは知ってる?」
「アーティーストの女性だね? 彼女の家は道の最後にある」
「その通り。その道沿いの左手にある、青いドアの家なんだよ」
「青いドアね、分かった! じゃああとで」
「うん、ありがとう、のちほどね」

我が家、遠景の写真
我が家、遠景

午後になると犬のサムが外で吠える声がし、大型のバンが我が家の敷地に入ってきました。
吠え続けるサムに「ヘーイ、大丈夫だよ、ほら」とフレンドリーに話しかけながら、運転手が降りてきます。
「You must be Peter?(ピーターさんですよね?)」
「Yep, that’s me alright!(うん、確かにそれが僕の名前だよ)」

待ちに待った本の到着。ピーターさんに手渡ししてもらい、さっそく家の中に運び入れます。小包みを開ける手が、感動と緊張で震えました。この数か月間、パソコンの画面上で作業をしてきた本。初めて手に取る、私の本。本の大きさや厚み、紙の質感、写真やフォント。どれをとっても申し分ない、素敵な仕上がりです。感激のあまり、胸がいっぱいになりました。無事に届けてくれて、ありがとう。

さて、本の到着を待ちわびていたのは私のご近所さん。本を見せに行ったついでに宅配業者とのやりとりを笑って話すと、「ピーターでしょう?知ってるわよ、彼なら。私のところにも荷物を届けに来るし、ほかの人の家がどこかを教えてあげたこともある。なんだ、うちの前を通ったのだったら、シャノンになんて持ち帰らないでここに置いていってくれればいいのに。そうしたら私がエリカに渡せばいいわけでしょう?」

そういえば、私が幼かった頃はよくお隣さんに荷物を預かってもらっていました。私たちの暮らす地域はつかず離れずの近所づきあいがちゃんとあります。隣人に託してもらえれば、二度手間もなく安心です。

ピーターさんの名前も分かったし、電話番号も持っている。次回はそんなアレンジをしてもらえないでしょうか。

届いた本の写真その1

届いた本の写真

  • 写真はすべて筆者撮影。アイルランド、クレア州、フィークル村にて

寄稿者 もちづきえりか 『見飽きるほどの虹』著者、アイルランド、クレア州フィークル村在住

news! 6月のアイルランド音楽イベントで書籍&ニットグッズ販売

6月に東京で開かれるアイルランド音楽のお祭で『見飽きるほどの虹』を販売します。
著者・望月えりかさんの素敵な手編み小物も販売!(受注した著者、鋭意制作中のもよう)。さて何がならぶかな?

Féile Tokyo フェーレ・トーキョー2019
https://www.facebook.com/comhaltas.jp/
会場は新宿区西早稲田のトーキョーコンサーツ・ラボです。
https://tocon-lab.com/access

ワークショップやコンペティション(アイルランドで行なわれる国際音楽コンクールの本選出場をかけた予選)の合間、6月16日(日)の12:00-14:20)に出店予定。
CCE(Comhaltas Ceoltóirí Éireann Japan:アイルランド音楽家協会日本支部) 主催
http://comhaltas.jp/
詳細は追って本サイトやFB、Twitterでもお知らせします。

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