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jig - いま・ここで 青木麻耶

Nomadとノマドと旅する百姓

先日、アカデミー賞を受賞し話題となっている映画「ノマドランド」*4を観た。原作となった書籍*5も読んだ。


*4  2021年3月26日日本公開、監督クロエ・ジャオ。サーチライト・ピクチャーズ公式サイト
*5 ジェシカ・ブルーダー著、鈴木素子訳『ノマド:漂流する高齢労働者たち』春秋社、2018年。

日本人が一般的に「ノマド」と聞いてイメージする人たちと、この映画に出てくる“nomad”たちは大きく違った。

まず、登場人物のほとんどはリタイアした高齢者。リーマンショックの影響で財産を失い、家のローンや高騰する家賃が払えなくなり、車上生活を余儀なくされた人たち。クリスマスシーズンのアマゾンの倉庫で働き、製糖用のビーツの収穫期には農場で働き、夏には国立公園のキャンプ場で働き、過酷な肉体労働を強いられている。日本ではこうした季節労働をしながら旅をしているのは主に若者なので、この点は対照的だ。

また、スケールの大きさもさすがアメリカだと思った。車の大きさひとつとっても、「タイニー」と言いながらもわたしの車のゆうに2~3倍はあるだろう。サッカー場13個分のアマゾンの倉庫も、何十ヘクタールにも及ぶビーツの農場も、延々と広がる荒野の砂漠も、規模感が全く違う。

車で生活している人たちも、必ずしもそれを好き好んで選択したわけではない、という事実にも衝撃を受けた。わたしが今まで知っていたバンライフを送る人たちは、自らそれを選んで、楽しみとしてやっている人ばかりだったからだ。でもそれは考えてみれば世界中で起こっていることで、自分の生まれる場所や環境を人は選べないし、例え成功して巨万の富を得たとしても、それが一夜にして覆されてしまうこともありうるのだ。

それでもその起こった現象や現状をどう受け止め、そこからどう行動していくのかということはその人にかかっている。どんな事情で車上生活をはじめたかはどうであれ、ここに出てくるnomadたちは全力で「今」を生きていると感じた。

また、不思議なことに何度も同じ人に出会ったり、旧友に思いがけず再会したり、そうしたことが旅の醍醐味であったりする。そんな旅を象徴するかのような人々の出会いと別れが、アメリカの雄大な景色を背景に描かれていて、わたしにとっては旅ゴコロがくすぐられる映画だった。

わたしが自転車でアメリカを旅していた時(『なないろペダル』参照)、度々キャンプ場に泊まっていた。中には電源などが備え付けられたキャンピングカー用の区画のあるRVキャンプ場も多い。一度キャンプ場で大きなフライパンが必要な時があって、RV区画のキャンピングカーから借りたことがある。その時は特に気に止めていなかったのだが、あれが彼らの「家」だったのだ。

昨年インドを旅していた時にオーロヴィルというエコヴィレッジで出会ったアメリカ人のフィデルという青年が、バンに住んでいるという話をしていた。写真を見せてもらうと、大きなバンの中をDIYで改装し、テレビやソファ、トイレ、シャワー、キッチンなども全て自分で取り付けたそう。

 

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