出版舎ジグ
jig-web メッセージ

決してひとりで生きてきたわけではなくヘッダー画像

『ひらけ!モトム』によせて

上田さんの歴代介助者のトーク

その1

決してひとりで生きてきたわけではなく

[進行]岩下紘己 [トーク]上田 要 及川 均 中村征樹  [ビデオ参加]島田一家

僕(岩下)は、上田要さんという、団塊世代の重度身体障害者のこれまでの人生の話を伺い、大学の卒業論文としてまとめた。それにさらに手を加えて、一冊の本『ひらけ!モトム』が生まれた。

上田さんの人生の話には、さまざまな人たちが登場する。
上田さんは決してひとりで生きてきたわけではなく、たくさんの人たちと出会い、ともに生きてきたのだった。上田さんの人生を辿っていく中で、そのことを強く感じていた。

けれどもぼくの力不足もあって、本では上田さんの話をまとめるだけで精一杯だった。一体、上田さんはどんな人たちとともに生きてきたのだろう。その人たちは上田さんとどのように出会い、どのようなことを感じ、どのように今を生きているのだろう。その人たちにとって、上田さんはどのように映っていたのだろう。

そんなことを聞いてみたくて、ふたりの方にお話を伺った。

中村征樹さんは科学技術と社会の関係について研究をしており、現在は大阪大学准教授をされている。及川均さんは「モケレンベンベ」という劇団を立ち上げて活動されてきた。東日本大震災後は、北海道札幌の郊外の『虹のしっぽ』と名付けた拠点でカフェや民宿を営み、さまざまなイベントの開催もされている。

以下は、2020年11月の書店B&B(東京・下北沢)オンライントークからの再録です

―上田さんとの出会い

中村
今、大阪大学で教員をやっています。学生時代、ぼくは1993年に大学に入ったんですけれども——そのときに「ぼらんたす」という東京大学のサークルがありまして、世田谷地域で生活している方々の介助を活動のひとつの軸にしていたんです。

そのご縁で、上田さんのところに介助に入らせてもらっていました。
上田さん、現在72歳ということで、ぼくが大学に入った時、上田さんちょうど45歳とかで、ぼくは今46で。けっこう改めて驚いています(笑)。今日はよろしくお願いします。

及川:
こんにちは。私はいま札幌にいるんですけれども、上田さんとはですね、「太陽の市場」という——いまここに『太陽の市場ができるまで』という本があるんですけれども、これによると、1981年ですね。今からもう40年くらい前なんですけれども、この「太陽の市場」の実行委員会というか、その中で上田さんと出会ったのが最初ですね。当時の上田さんの写真があるんですけれども、これが上田さんで、ここにいる七三分けのサラリーマンが私です(笑)

岩下:
あ、そうだったんですか(笑)

及川:
今からもう40年前ですけれども、その時に上田さんと会って、一緒に演劇をやったりとかですね、いろいろやっていました。

—上田さんと彼女をふたり残して…

岩下:
上田さんと出会って印象に残っていることを教えて下さい。

及川:
私は、上田さんとは介助っていう関係ではなくて、「太陽の市場」っていうイベントで知り合ったんですけれども、そのときまで障害のある方と接する機会っていうのも全くなくて。最初はほんとに、上田さんの言葉自体がわからなくてですね、非常に右往左往してたんですけれども、徐々にいろんな活動を通じてだんだん親しくなったっていうことですね。

いろんな思い出はあるんですけれども——15年か20年くらい前だと思うんですが、あるとき昼間に上田さんの介助に入ったんですね。上田さん家に行きますと、ちょうど上田さんの彼女がいまして。

岩下:
はい(笑)

及川:
その彼女も車いすの方だったんですけれども、彼女とその彼女の介助の方がいらっしゃいました。上田さんからはですね、「今日はあの、彼女一緒にふたりでビデオ見たい」ということを言われたんですね。

ふたりきりで観たい、ということなんで、どんなビデオ観るのかなあと思ったら、なんか外国のですね、How to sexというわけではないんですけれども、男性と女性が恋愛をするような、そういう外国のビデオを借りてきていて、「これをふたりで見たい」と。

それでテレビの画面の前に上田さんとその彼女で並んで座って、ふたりで手をつなぎたいというんで、手をつながせてですね、ビデオのスイッチを入れて。私と、その上田さんの彼女の介助者の方は、上田さん家から出て。ビデオは30分くらいだっていうんで、30分間近くの喫茶店で退避したんですね。喫茶店で、上田さんの彼女の介助の方と話したんですけれども、なんか非常に微笑ましいよね、と。照れるわけではなくて、そういう性のことも、ふたりでそういう時間を楽しみたいんだ、って。

30分過ぎて、上田さん家に戻っていったんですけれども、本当にふたりがニコニコしてですね、非常にそれが印象的で。なんかいい感じがしたな、なんていうことを思い出しましたね。

岩下:
貴重な話をありがとうございます。なかなかこういう話を本には載せられなかったなと、振り返って思ってたんですけれども、上田さんどうですか?

上田:
あの、今でも70にもなって、まだ青春を味わってます(笑)

岩下:
……それをもうちょっと詳しく教えていただけますか?(笑)

つづく

【『ひらけ!モトム』によせて】 連載一覧

↑

新刊のお知らせ