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決してひとりで生きてきたわけではなくヘッダー画像

『ひらけ!モトム』によせて

上田さんの歴代介助者のトーク

その1

決してひとりで生きてきたわけではなく

ビデオ、スタート

画面左上に小さな文字で「島田一家は僕の家族です♡」「あらためて家族会議」というタイトルが流れてくる。上田さんの家のリビングで、島田一家4人と上田さんがテーブルを囲んで座り、あらためて家族会議が始まる。

お母さん: 1番から?
上田さん: はい。

—家族が増えて嬉しかった

第1問 和空を妊娠した時、その子は俺の孫だ!と言われてどう感じましたか?

お母さん: 上田さんが「孫だ!」と電話越しに叫んだとき?
上田さん: あ、電話じゃないんだよね(笑)
お母さん: 電話じゃないんですよね(笑)。そうそうそう(笑)私たちも電話?って思ったけど(笑)上田さんが「孫だ!」って叫んだとき、どんなふうに思いましたか?

お父さん: これはえーと…
お母さん: これしまっち(お父さん=島田さん)が聞いたの?
お父さん: 一緒にいた…
上田さん: アメリカにいて、
お父さん: ね、そうそうそうそう、
お母さん: あ、帰ってきたときだ! それで子どもができたとしたら、そん時の子だって言ってた時だ。
お父さん: そうそうそう、できたっぽいって話になって。たぶんその時じゃないかな。だからまだ、できたって妊娠がわかったくらいの時だよね。

お母さん: どう思ったか…?
お父さん: なんだろうね、その前からわりと関係性はあったかなと。
上田さん: 本にも書いてあったかな。島田さんがぼくの介助者として毎週のように来てもらって、話してるうちに意気投合しちゃったっていう—

千種ちゃんはもくもくと紙に鉛筆で何やら絵を描いている。両手で持ったデジタルカメラを、声を絞り出しながら話す上田さんのほうに向けて、シャッターを切る和空くんを見て、両親は笑っている。一体どんな写真が撮れているんだろうか。

上田さん: そのつながりで、(同じ介助者の)会のメンバーのひとりである女性と結婚することになったとき、結婚式の、どういうわけか上司として…… 招待を受けて。
お母さん: 新郎側のスピーチをお願いして。
お父さん: そうそうそう(笑)

上田さん: そんな関係もあって、自然な流れで、
お父さん: そうだよね、もうそんときからね、自然な流れでね。
上田さん: そんなところで、いつの間にやら、(ふたりに生まれた子を)和空のことを「俺の孫だ!」って言ったんだけど。真相は、自分でもわかりません。
お父さん: (笑)
お母さん: (笑)
和空くん: じいじ、いる?(ストローのささった上田さんのお茶を差し出す。話がひと段落して、のどが渇いているんじゃないかと思いやったようす)

お母さん: 子どもに関わってくれる、一緒に育てようっていう人が増えたっていうのは単純にうれしかったですね。上田さんが「孫だ!」って、「俺の孫だ!」って言ってくれて。子どもには、おじいちゃん増えてやったー!っていう、そんな感じかなあ。お年玉も増えるとかね(笑)
上田さん: あれ(笑)。お年玉あれ(笑)
お父さん: あれ(笑)

—話すのが楽しみだった

第2問 上田さんと初めて会った時の印象は?

お母さん: じゃあ次行きますか。「上田さんと初めて会った時の印象はどうでしたか?」みんな言ってみようか。
お父さん: まあ和空たちは…お腹の中ですでに会ってたもんね(笑)ぼくはもう介助者だったから、単純にね、介助者と利用者っていうふうなものが、たぶん当初はあったと思うし、まあ最初はほんとそんな感じですよね。

お母さん: 自立生活をしてらっしゃる別の方のお宅にお伺いしたとき、介助者の方たちがほんとに黒子っていうかね、手足となってサポートされてるっていうのを見てたんです。その時の印象が、結構強かった。でも上田さんは、しまっちが介助してるとき――そんなときに私は上田さんと出会ったと思うんですけど、黒子とかっていうよりは、ほんとに気遣いあう存在、みたいな感じに見えて。いい意味で対等な感じがして。いいなあって思いましたけど。

お父さん: ぼくが介助者としてどうだったかっていうのは…… 上田さんがね(笑)、ちょっといろいろ話しづらい部分もあると思うけど(笑)

上田さん: まあ、本にも書いてあると思うんだけど、なんか共通の価値観みたいなのが感じられて。
お母さん: うんうん、しまっちと上田さんのね。
お父さん: そうだよね、なんかそれはね、大きいものがあったんだよね。

お母さん: しまっちも、話すのが楽しみ、みたいな感じで介助に行ってたよね。
お父さん: そうだよね、なんか毎回、すごい核心ついた何かを話して(笑)
上田さん: (笑)
お母さん: 悩み多き、だったしね(笑)

お父さん: うん、自分はすごく悩み多かったし、上田さんにそういうのぶつけたりもしてたと思うし。上田さんにぶつけてどうなる話じゃ全然なかったんだけど、ひとつひとつ、なんて言うんだろう、擦り合わせていく部分があったっていう。
上田さん: 擦り合わせられた。
お父さん: 擦り合わせられた?
上田さん: いやいや、お互いがね(笑)

—故郷を訪れて家族を感じた

第3問 何か記憶に残っている上田さんとのエピソードは?

お母さん:「何か記憶に残っている上田さんとのエピソードはありますか?」いっぱいあるけど(笑)

お父さん: ひとつは、上田さんの故郷の江田島に行ったとき、広島県のね。
お母さん: 新幹線に乗って(笑)、車レンタルして、船乗ってね、旅館泊まって。

お父さん: 本に書いてあったあの風景だったりとかが、言葉じゃなくてね、もう絵で蘇ってくるようなところが。
お母さん: (上田さんの)お母さんが上田さんの車いすの手を離しちゃって、追っかけて転んだ坂とか、あそこかなあって思ったり。お父さんが花火大会の音から逃げて海のほうまで行ってって。
お父さん: そうだね、あそこ、わりと(距離)あるっていうか、坂下って。あそこでも花火聞こえそうだけど。
上田さん: そうそうそう。

お父さん: 海行ってすぐ坂があって。それを上田さんの故郷だよって紹介してもらうってね、自分のおじいちゃんでも絶対やらないようなことだから(笑)
お母さん: 旅館にさ、親戚の方が訪ねていらしたじゃないですか。
上田さん: はいはいはい。
お母さん: その時も、やっぱり家族って言うかね、「一緒に東京から来た家族」っていう気持ちが強くなったよね。
お父さん: そう強くなったよね。
お母さん: なんか親戚に会ったみたいな。見たことない親戚に会ったみたいな。

つづく

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