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『ひらけ!モトム』によせて

上田さんの歴代介助者のトーク

その2

決してひとりで生きてきたわけではなく

上田さんから受け取ったもの

岩下:
お伺いしたいことまだまだあるんですけど、それはまたの機会にしたいなと思います。
上田さんとの出会いや思い出から始まって、どんな活動を上田さんと一緒にされてきたのか、話を伺ってきたんですけども、最後に今日の話全体も振り返りつつ、当時の活動であったり上田さんはじめ障害者の方々との出会いが、今のおふたりの活動などにどのような意味を持っているのかなというところを伺いたいなと思っているのですが、いかがですか?

—どうやって地域を巻き込むか

及川:
さっきのバスの乗車拒否に関しては、ちょうど2年前に上田さんがここ(札幌)に来た時もですね、地元のバスに乗ったときに上田さんが非常に不愉快な思いをされたということがあって、まだまだ札幌の町ってそういうところの配慮がないなと感じました。

今私は妻と一緒に札幌の郊外にいるんですけども、演劇ワークショップとか、まだまだ展開しきれてないんです。東京は割とそういう意味ではいろんな人たちが出会っていろんな取り組みがされてるんですけど。やはり札幌と言えども、北海道の中では大きな町ですけど、まだまだ取り残されてるというか、課題があって、自分たちもこれからどういった形でやっていくのか、いろいろ今までやってきたことも参考にしながらこれからやっていかなきゃいけないと思っています。

そういう意味では上田さんと出会ったときの世田谷でのいろんな実践というのは何らかの形で参考にしつつ、応用しつつ、やっていきたいなというふうに思っています。

—見えにくい問題を見る

中村:
ぼく自身はもともと大学に入ったときは理系で、そのあと学部のあいだに文転をして、科学技術と社会との関係ということについて歴史だったりとか倫理だったりとか、そういうような観点から研究するように移ってきました。その中で上田さんとの出会いだったりとか、あるいはバス壁の話だったりとか、障害者を取り巻く状況について学んだっていう経験がけっこういろんな形ですごく原体験になったなあといろいろ思うことがあります。

特にさっきのバス乗車拒否の話とかって、普通に生活してるとあんまり気づかないですよね。見えない。見えていないんだけれどもそこにある問題というのがいろいろある。それが特に車いすを利用していたり、障害者だったり、いろんな意味での弱者にとって大きく立ちはだかってくるっていう、見えない問題っていうものがいろいろあるんだということを、ちゃんと見ていかなきゃいけない、明らかにしていかなきゃいけない、ということを考えながらいろいろやっています。

それこそ東日本大震災だったりとか、新しい問題がすごく出てきたというよりはそれまで潜在的にあったり、そこにあったものが特に表に浮かび上がってきているというようなことが非常に大きいのかなと思っています。科学技術というものがどんどん進んでいく中で、どんな倫理的・社会的な問題が出てくるのか言及してるんですけれども。

やっぱり科学技術が進んで非常に便利。もちろん障害者の方たちも便利なことがある一方で、そうではない、ある意味そこに孕むいろんな見えない、見えにくい問題であったりとか、あるいは新たに考えうる問題を考えていくことが必要なんだろうなというようなことを考えながら取り組んでいます。

—ベースとしての地域と人のつながり

岩下:
ありがとうございます。僕自身の話をしないのはアンフェアだなと思ったので、最後に僕の話もして、そのあとに上田さんのほうで言葉をいただいて締めたいなというふうに思います。

ぼく自身は大学院で臨床心理のコースにいるんですけども、上田さんの話を聞いて、すごく感じたというか、ぼくが一番受け取ったのは、どんなに制度があっても、どんなにバリアフリーが進んでも、やっぱりベースとして、地域だったり、いろんな人とのつながりみたいなところが生活にないと生きづらいんだな、ということです。

「太陽の市場」の演劇ワークショップもしかりですし、「世田谷ボランティア連絡協議会」っていう活動であったりとか、上田さんの「バス壁」の運動もそうですけど、障害者の問題を考えていく上で障害者だけではない、すべての人に共通する問題みたいなものもたくさんあると思いますし、そういった中で、障害者の問題をきっかけにあらゆる人が生きやすい、つながりであったり、居場所であったり、そういったものがある社会にしていけたらいいなあというふうに思っています。

—「地域」へのこだわり

岩下:
上田さん、今まで及川さん、中村さんと一緒にいろいろと昔の話を振り返ってきましたが、いかがでしたか? 最後に一言お願いいたします。

上田:
ぼくはこの40年間、地域という言葉にすごいこだわっています。なぜかというと、たった7か月いた広島の療護施設の生活を経て、まさに、あの療護施設だけじゃなくて、障害者施設全体にも言えますけど、あれは地域ではないんですよ。

地域っていうのは、いろんな人が同じところで住んで、各々が自分たちで生活をつくっていきながら、お互い認め合える関係を作っていくんだと思います。障害者施設という別物の世界に押し込められて、非人間的な生活をさせられざるを得なかった僕が、地域という言葉と出会って、これがまさに施設の問題を解決していくためのひとつのきっかけになるかなと思って活動してきました。

本の中にちょっと名前が出てきますけど、ぼくの真上に住んでいる八木橋さんというご家族にすごく仲良くしていただいて、子どもさんもたまにひとりで勝手に遊びに来る関係なんですが、ついさっきまた来てもらって、来月あたりまたパーティーやろうかという話になって、お互い喜びあったってことがありました。

孫たちとの関係もきっとそうですけど、ぼくが人間関係をつくっていくことで障害者が地域で当たり前に生きていくということを、これからもやっていきたいと思ってます。

—ひらく・開く・拓く

上田:
あらためて『ひらけ!モトム』という題について、最初「ひらけ」って何なのかとふと思ったんですが、「ひらけ」ってオープンっていう意味もありますけど、開拓の「拓」っていう字も「ひらく」という意味なんですね。

まさにぼく、まだひらききれてないのかなと思って、もちろんこれから何年生きていくかわからない、明日かもわからないですけど、とりあえず「ひらけ!モトム」と言われた以上、ひらきつづけていきたいと思います。みなさんこれからもお互い一緒に生きていきましょう。よろしくお願いします。

岩下:
よろしくお願いします。ということで上田さんがきれいに締めてくださったので、ぼくから追加することはありません(笑)。

時間もかなりオーバーしてしまっているので、このへんで今日は終わりにしたいと思います。視聴者のみなさん、今日はお越しいただいてありがとうございました。及川さん、中村さんもお忙しい中、上田さんもお忙しい中、ありがとうございました。

この本、今日のトークイベントとか、本を読んでいただいたことをきっかけに、演劇とか学問の世界でも、地域の活動でも、いろんなところでひらいていけたらなあと思っています。ということで、今日は本当にありがとうございました。

上田:
ありがとうございました! お疲れさまでした! 今後ともよろしくお願いします。

… 終了後

上田: 岩下さん… それ…、大学の電気切られた感じですか?(笑)

岩下: そうです(笑)、10時を過ぎて、電気が切られてしまいました。びっくりしました。電気付けに行こうかなとも思ったんですけど、でもこのカメラから外れちゃいけないよなとも思ったりして。まあちょっと映ってるからいいか、みたいな(笑)。

*1「太陽の市場」「みんなの広場」「HANDS世田谷」と上田さんのかかわりについては『ひらけ!モトム』「4 みんなと、ひとりで生きていく」(p128 ~144)に詳しい。

*2「バス壁」については『ひらけ!モトム』「5 バスはみんな乗れないと」(p145 ~163)に詳しい。

*3 安積 純子・尾中 文哉・岡原 正幸・立岩 真也『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』(第三版・文庫版)生活書院、2017年。

*4 HANDS世田谷については、『ひらけ!モトム』での記述にくわえて、オンライントークに先立って、障害当事者で、上田さんと長年、公的介助保障を求める運動で活動してきた、HANDS世田谷の鈴木範夫さんに詳しくお話をうかがいました。ジグのサイトで読めます。「B&Bオンライン・トークのために  その1」その2、その3もページリンクから読めます。

・「みんなの広場」の画像は、YouTube動画「世田谷ライブ映像」(企画・提供:東京都教育委員会、製作:テレビ東京、日経映像)より

・「太陽の市場」の写真は『ひらけ!モトム』より転載。出典の「太陽の市場」の記録冊子は、太陽の市場実行委員会編『太陽の市場 1981年5月22日~6月3日世田谷区羽根木公園』(身体障碍者団体定期刊行物協会)

 

岩下 紘己 いわした ひろき 『ひらけ!モトム』の著者。立命館大学人間科学研究科博士前期課程在籍。

上田 要 うえだ もとむ 『ひらけ!モトム』の主人公、生活史の語り手。1948年広島県(現・江田島市)生まれ。78年より東京都世田谷区に暮らし、86年より24時間介助。自立生活実践中。

及川 均 おいかわ ひとし 上田さんの歴代2代目介助者。もと黒テント劇団員。現在、札幌でパートナーの藤沢弥生とhotcafeほっぺた館や民泊、表現活動やワークショップを主宰。

中村 征樹 なかむら まさき ボランティアグループ「ぼらんたす」初期メンバー/介助者。大阪大学教授。

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