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フラーマミーが行く! 望月えりか

アイルランド音楽が熱い夏

フラーがそんなに大きなイベントなら、アイルランド音楽にたずさわる誰もが関わっているように思われがちですが、そういうことでもなさそうです。アイルランド音楽シーンにおけるフラーの占拠率は決して高くなく、実際に足を運んでみるとごく一部の人々が中心となったイベントであることが分かります。
音楽の技術を競うイベントが、アイルランド音楽を完全には呑み込んでいない。フラーという関門を通過せずとも立派なミュージシャンとして認められている人たちが数多くいるアイルランド音楽の世界は、健全であるようにも思います。

タラケーリーバンドの写真
私の暮らす村の隣町で結成されたタラケーリーバンド(1950年代中頃)
出典・Clare Institute for Traditional Studies

さて、フラーに参加すると言っても8月の全国大会に誰でも出られるわけではありません。
予選というものがちゃんとあって、これを勝ち抜かなければ出場することはできないのです。具体的にはまず各州内で行われるカウンティー・フラー。子どもたちが出る年齢別ケーリーバンドのコンペティションでは、上位2位(または3位)までに入ると翌月にある地域ブロックのフラーに進むことができます。クレア州はマンスター地方に入るので、マンスター・フラーということになります。関東大会のようなものですね。ここではマンスター地方にある各州から選ばれたバンドが出てきて競技が行われます。
過去の様子を見ていると、いずれの予選でも12−15ほどのバンドが競うので、かなりの難関。とりわけ、クレア州やマンスターというアイルランド南西部は昔から伝統音楽が盛んなので、結果的に高レベルのコンペティションになると言われています。ここで勝ち残ったバンドが、8月の全国大会への出場権を得る仕組みです。

15歳以下の部門,娘の所属するケーリーバンドの写真
15歳以下の部門,娘の所属するケーリーバンド 2018年クレア州タラ
2018 u15 Tulóg Band 写真提供・Tulla CCE

音楽スクールの先生に最初に声をかけてもらった時には、コンペティションと聞いて躊躇した私も、ケーリーバンドであれば10人のグループだし、ドラムやピアノ伴奏のもと、フルートやアコーディオンなど異なる楽器との演奏は、子どもたちにとって楽しいのではと思えてきました。一つのものをみんなで作り上げていく喜び。大変な練習を乗り越え、最後にステージに上がりその成果を披露する緊張感と開放感は、一生忘れることのない貴重な体験になるのではないかしら。

最もシビアであるソロのコンペティションには興味を示さない我が子どもたち。
親友の女の子などがいくつものコンペティションにエントリーする中、我が娘は自分のポニーに乗って近所を走り回っています。12歳以下のケーリーバンドに入っている息子が一言。「カウンティー・フラーでどうか落選しますように!そうすれば練習もないもんね!」
競争心のまるでないところ、誰に似たのでしょう。

リビングの子どたちの写真
いつも音楽と楽器がある暮らし。リビングで 撮影・筆者

楽器のグループレッスン、個人レッスン、アイリッシュダンスに歌のレッスンと目のまわるようなスケジュールを毎週せっせとこなすフラーマミー。これも娘のメダルのため、息子のトロフィーのため? そんな正式なフラーマミーとはほど遠い私も、夕飯の支度を整えたあとは子どもたちを乗せて隣町までひとっ走り。
さあ、レッツゴー、フラーマミー!

もちづき えりか   『見飽きるほどの虹』の著者。アイルランド、クレア州フィークル村在住。

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