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『ひらけ!モトム』によせて

-『ひらけ!モトム』-

上田 要

「ひらけ!モトム」が世に出て

約 2 年前に介助者の岩下紘己さんから、「上田さんの半生をまとめたものを卒論にしたいのですが、いいですか?」と言われたとき、一瞬戸惑ったがそろそろそういう時期になったかと逆に勇気をもらった感じがした。

僕が 20 代の頃、せいぜい長く生きても 21 世紀は見られないだろうと思っていたが、それより20 年も長く生きてしまったので何かにまとめて残しておきたいような感覚がどこかにあった。

その後、介助に入るたびに録音機を持参して、彼は僕の声を聞いてくれた。

何度か書き直しをしたうえで、正式に出来上がったのが今年 1 月の半ば頃だったので、卒論提出日ギリギリだった。

ゼミの教授であった小熊英二氏から、優秀だとほめられたという言葉をいただいたと話を聞いて 2 人で喜んでいたら、あれよあれよという間に出版の話が出てきた後はまるで夢を見ているようなこの数か月だった。

「友達の結婚式で東京に帰ることになったので立ち寄らせてもらっていいですか」と連絡が来たときには、まるで息子が帰ってくるような思いがした。

文中に僕の部屋の入り口に置いてあるスリッパが汚いという部分(※1)を読んだ彼のお母さんが、わざわざ新しい立派なスリッパをお土産に持たしてもらったと言われて、2 人で大爆笑しながら「あの後結構綺麗で洗えるスリッパを買ったんだよ」と伝えたら、彼はもう1 度大爆笑。

※1 スリッパのこと

「インターホンを鳴らし、「こんばんはー」と言いながら、私は玄関のドアを開ける。もわっとした独特の匂いの中に足を踏み入れる。看護師さんからなるべく窓を開けないようにと言われており、空気が滞っているのだ。上田さんは家の中で基本的に横になっているので、特に冬は冷えやすいのだろう。
(中略)
靴を脱ぎスリッパを履く。いくつかの中から清潔そうなものを選ぶのだが、片方の底が剥がれていて底の厚さが違うのが気になる。それも履いているうちに慣れてくるが、今度は、ずっと履き続けていると足の長さが違ってくるのではないか、などと心配してしまう。」
『ひらけ!モトム』10頁より

もはや岩下家ご家族と親戚関係になったようだ。

僕が孫だと勝手に決めつけている和空(わく)が生まれてから(※2)、家族というものにこだわるようになった。

※2 和空くんのこと、「家族」のこと

「和空が生まれて四日目にお見舞いに行ったら、お母さんが僕の膝に抱かせてくれたんだよね。四日目だよ?
四日目に、たいした縁でもないのに、膝に抱かせてくれたんで、すごい深いものを感じてさ、まさに孫みたいな感じでした。」
『ひらけ!モトム』186頁より

なぜこだわるようになったかというと、上田家の跡取りという役目を与えられて生まれてきたことに対して、その役目を果たせるのかということに対して、血がつながっていなくても、跡取りと関係なくても、家族はできるという意地のような思いがある。現に戸籍上の姉とも血はつながっていない。

重度障害者の色々あった人生を、あまり肩肘張らないで読んでいただければ幸いです。

 

→「再 会」岩下紘己

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