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『見飽きるほどの虹』によせて 望月えりか

虹を撮る

本のタイトルとなった「見飽きるほどの虹」は、私が過去にブログに書いた記事のひとつに付したタイトルです。その記事の中では、大西洋から到来する低気圧や、散り散りになってやってくる低い雨雲など、雨の多いアイルランドの天気について書いています。雨を語らずしてこの国をイメージしてもらうのは不可能!という思いから、実際本書にも挿入されている記事です。
「本のタイトルを決めましょう」という段階では、当初もっと総合的なタイトル、例えば「アイルランド田舎生活」のようなものを想定していました。しかし編集者さんから「直接的すぎます、もったいないです」とダメ出しをされ(笑)、さてどうしよう。アイディアはさっぱり浮かびません。結局題名のない本という心もとない状態のまま、編集作業だけが次々と進んでいったのでした。

虹を撮る

本のタイトルに「虹」というキーワードを入れたい。
何となく、でも直感でそう思いはじめてからもなお、最終的なタイトルが決まるまでにはまた一つの峠を越えなければなりませんでした。「虹」の入ったタイトル候補をいろいろひねり出してみます。「虹の向こうに」「虹の国からの○○」「虹の国からの××」どれもこれもいまいちだなあ。またしてもう〜ん、う〜んと唸っている私に、編集者さんがびしっと「やはり『見飽きるほどの虹』がいいと思います」
このタイトル候補は、実ははじめから編集者さんが提示してくれていたのです。ただ、私は正直ピンと来ませんでした。そもそも本に入っている小見出しのひとつだし、イメージがあまりに漠然としたもので、本を手に取ってくれるかもしれない読者の皆さんにとってアピール性があるのかどうか・・分かりませんでした。そんな気持ちのまま、ほかのタイトル候補の中に埋もれていたのです。

呑み込めないでいる私に、編集者さんはここぞとばかり強く推してきます。譲らぬところでは踏ん張り、信じる思いを直球で投げてきてくれるのも、彼女の持ち味のひとつ。
「『見飽きる』というのは通常否定的で評価を下げる表現ですが、『虹』という強い肯定イメージの語が持つロマンチシズムを、ぐっと押さえてユーモアを加えてくれます。これが、えりかさんの本のトーンに合います」

キリスト教圏では虹は誓い、約束であり、祝福や希望の象徴でもあると。
極めて個人的な理由で思い立った「虹」が、私の中で少しずつ本の内容とつながり、意味を持ち、タイトルとしてふさわしい「虹」へと変わっていきました。

虹がタイトルにつけば、1枚ぐらいその写真があるといいですよね。
数年前に撮影したものが手元にあったので、最初はこれを使う予定でいました。しかしこの写真、必ずしも美しいとは言えない。構図を考えた形跡がないし、なにしろ大急ぎで撮った記憶があります。

「もっときれいな虹の写真が撮れたらよかったな」と思っていたところへ、突然の機運がおとずれました。
我が家では子どもたちにも家の雑事を役割分担させており、息子のショーンの主な仕事は夕方のえさやりです。犬のサム、3匹の猫、2羽のカモにニワトリ5羽。すると、えさやりから戻ってきたショーンが裏口のドアを開けると同時に「虹が出てるよ!すごくくっきりした、きれいなの」
反射的にカメラをつかみ、スリッパをつっかけ慌てて外に出てみると、ああ、ありました!
ショーンの言う通り、見事な弧を描いた鮮やかな虹が。私の後ろから娘のリラも出てきて、「マミー、こっちこっち、ここから撮ると全部写るかも」と家の周辺を駆け回って教えてくれます。アイルランドの虹はわずか数分で少しずつ色褪せ、消えてしまいます。シャッターチャンスは今しかない!家の裏のやや小高い場所を走って、どんどん写真を撮っていきます。虹が出ている間にも、空からは雨粒が落ちてきます。雨でカメラのレンズが濡れるのもお構いなしに、灰色の空にかかった7色のアーチをいろいろな角度から写真に収めました。本に使える写真が1枚でも撮れればいい。11月の終わりのことです。
そんな子どもたちの協力もあって、見事本に挿入されることとなった写真がこちらです。

虹を撮る写真2

「僕が最初に教えたんだもんね、僕のおかげ!」と息子のショーンは誇らしげ。

虹はほかにも、平和、悟り、美、つながり、創造、共生といった意味があるそうです。
あら不思議。どれも本書にまぶしたエッセンスの一粒一粒に思えてくるではありませんか。

編集作業が終わり、本が印刷された今になってそんなことを知る著者(笑)。なんだかあべこべでまぬけなようでもありますが、このタイトルにしてよかったよかったとホッと一息つくのでした。

虹を撮る3

 

[画像出典]

写真はすべて筆者撮影。

  • 1枚目:近所の農道から、自宅遠景。2018年12月30日。
  • 2枚目:自宅の庭から、虹。2018年11月30日。
  • 3枚目:2012年4月18日、自宅遠景。

寄稿者 もちづきえりか 『見飽きるほどの虹』著者、アイルランド、クレア州フィークル村在住

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