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地の果てパタゴニアまでやって来た<br>新型コロナウイルスとその行方ヘッダー画像

ワリピニ通信 菊池木乃実

地の果てパタゴニアまでやって来た
新型コロナウイルスとその行方

次に行った店では、20キロ入りのジャガイモの袋を肩に担いでいく人を多く見かけた。フェイスブックで、「自宅待機しよう」というハッシュタグと一緒に、「じゃがいもを備蓄しよう」というハッシュタグが出回っていたのを思い出した。けれども、パニックになっている人はいないようで、どこの店も棚は品物で一杯。トイレットペーパーも大量にあった。例外は、消毒用アルコールと漂白剤。この2つは、品薄だった。

次の店では、カウンターに立っていた女性のお客さんが、マスクをせずにゴホゴホと咳をしていたので、思わず後ずさりしてしまった。カウンター越しに対応していた店員の男性も、両手で顔を覆って、「ちょっと、ちょっと、咳してるんだったら、家に居たほうがいいよ」と、笑いながらも不安を隠せない様子だった。

最後に行った店では、レジに座っていた店主のおばさんがマスク越しに咳をしながら、「風邪引いちゃったの。心配だわ」と表情を曇らせ、レジに並んでいた男の子はマスクをせずにくしゃみをし、おばさんの娘は、消毒スプレーで店のカウンターやら棚やら、あらゆる場所を消毒していた。なぜか、現実でないようなシュールな光景だった。

買い物を終えると、ぐったりしていた。咳やくしゃみをする人を見るたび、知らず知らずのうちに緊張していたのかもしれない。車を出してくれたマリがおそらく、数か月分はあるであろう大量の食料を丘の上の家まで運んでくれた。ああ、持つべきものは友達。彼女は、今、セルフビルドでアースバックの家を建てているので、家ができるまでの間、3歳の息子と一緒に私たちのゲストキャビンに住んでいる。友達だからもちろん無料。その代りに、車を出してくれたり、薪を運んでくれたり、パンや夕食をおすそ分けしてくれたり、いろいろ助けてくれる。このタイミングで彼女がいてくれて、本当に良かったと思う。

その日、感染者は155人に達し、ピニエラ大統領は、18日からチリの国境をすべて閉鎖すると発表した。チリは地域感染のフェイズ4に入り、50人以上の集会は禁止になった。

この原稿を書いている3月17日現在、チリの感染者は201人。南極に最も近いマガヤネス州(有名なトレデルパイネ国立公園がある)でも、今日2人感染者が確認され、ほぼすべての州で感染者が出たことになった。厚生大臣によると、感染者がピークに達するのは4月末か5月初めだという。また、感染者は10万人に達することを予想して、病院や軍の施設に協力を呼び掛け、コンベンション・センターも貸し切って43000台ベッドを確保していると発表された。

そんな中、ポールは昨晩、シドニー大学の「サステイナブル講座」で220名の大学生にオンラインで講義をした。

オーストラリアでは、来週から大学はオンライン講義になるので、教室に来た生徒はまばら。他の生徒はすでに自宅からオンラインでアクセスしていた。一時間に及ぶ講義の中で、ポールはこう言っていた。

「新型コロナウイルスは、ものすごい悲劇だけれども、これによって、グローバリゼーションや経済優先の今の仕組みが持続可能でないことが次々に明るみに出て、崩壊していく。この大惨事を切り抜けた後に、オルタナティブな新しい世界を作って行くチャンスだ。気候変動などの問題を考えると大き過ぎて個人では何もできないと思いがちだけれども、問題に押しつぶされないことが大切。世界を良くするために自分ができることを精一杯やっていれば、最終的にはそれでいいと思えるし、もっと、やろうという気持ちになる」。

宇宙から見た中国の上空の大気汚染が減り、あちこち忙しく移動していた私たちが突然じっとしていることを強いられて化石燃料の消費量も激減し、私たちはこれまでの狂ったような消費を止めざるを得なくなっている。ある学者は、過去30年間、気候変動をスローダウンしようとしながら、人類がまったく達成できなかったことを、コロナウイルスは、あっという間に達成してしまった、と言っていた。

もちろん、これからも、たくさんの人が亡くなってしまうだろうことは悲劇だし、毎日、信じられないくらい多くの人々が愛する人を亡くしていると思うと胸が痛むけれども、経済成長の名の下に自己破壊的に突進してきた人類が今ようやくストップしている。そして人びととは逆に、地球はまるでひととき安堵しているようにも思える。

きくち このみ 南米パタゴニア地方にイギリス人の夫ポール・コールマンと移住、アースバック (土嚢)を積んで基礎とする家を建て、1200 本以上の木を植え、温室や菜園で野菜を育てシンプ ルで持続可能な暮らしを発信中。著書『木を植える男 ポール・コールマン 4万 2000 キロ徒歩 の旅』(角川書店)、『Beautiful Life 世界の果てで暮らしてみたら』(電子版)。オフィシャルサイト Live Simply, Live Joyfully シンプルな暮らしの中で喜びに生きる https://konomikikuchi.com/home/ ポールさんと木乃実さんのパタゴニアでのシンプルライフは、『なないろペダル』(出版舎ジグ) で著者の青木麻耶さんも紹介しています。関連記事→「フェンスを越えて、来てください」 https://jig-jig.com/serialization/special/nanairo_01/

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