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南インド放浪記 青木麻耶 その2

アーユル・ヴェーダの日々

アーユルヴェーダの奥深さにますます興味を持ったわたしは、長年患ってきたアトピーと慢性的な便秘の改善のために、今度は知人の紹介でケララ州・カヌールの街にあるアーユルヴェーダ病院に3週間ほど滞在し、パンチャカルマという治療を受けることにした。

アーユルヴェーダのトリートメントを受けられるところは星の数ほどあるけれど、ここはよくあるリゾートやスパ施設とは違い、地元民や評判を聞きつけた人たちが国内外からわざわざやってくる、伝統ある病院。

ドクターとの問診や触診、そして脈や舌の様子からも体の状態がわかるらしい。

治療の流れとしては、スネハパナ(薬草入りのギーを飲む)+アビヤンガ(全身オイルマッサージ)で内からも外からも油で毒を溶かし出して胃腸に集積させる→ヴィレーチャナ(下剤)やバスティ(浣腸)で溜まった毒を排出する、とのこと。

スネハパナをするにあたって、「今はまだピッタ(火の性質)が高まっているから、この状態でギーを飲むのは火に油を注ぐような危険な行為。数日間火がおさまるのを待ちましょう」とドクター。

このように治療以前の準備期間、そして終わってからもなるべくゆったり過ごすのが理想とされているので、時間にはかなりの余裕(施術だけでも通常3週間から1ヶ月以上、生理期間中は治療がストップしてしまうのでそれも考慮して)を見ておく必要がある。他の施設ではヨガなどのプログラムも併設されているところもあるようだが、ここでは運動や太陽に当たるのは極力控えるように言われ、外出できるのは朝晩30 分の散歩のみ(スネハパナ中の5日間は散歩も禁止)というかなり厳しいルールだった。

というわけで、わたしはコロナ禍に先駆けて外出禁止を味わうことになるのであった。

翌日からスネハパナがはじまるまでの数日間は、「火」を落ち着けるため、冷たいバターミルクを頭に垂らしながらマッサージをする「タッカダーラ」を受けた。2月とはいえ日本の夏並みに暑い南インド。ひんやりとしたバターミルクがさらさらと流れていくのがとても気持ち良くて気づけば眠りに落ちていた。

タッカダーラに使う桶。ここにバターミルクを入れて頭に垂らす。
タッカダーラに使う桶。ここにバターミルクを入れて頭に垂らす。

はじめの数日こそ、紹介してくれた日本人の方が同席してくれたが、その後は病院内にはドクターや数人のスタッフ以外は英語を話せる人も少なく、身振り手振りとグーグル先生の力を借りてコミュニケーションを図るしかなかった。

そんな不安の中、ついにスネハパナがはじまった。事前に経験者から「薬草ギーが死ぬほどまずい」「飲んでしばらくしてから失神した」などの強烈な噂を聞かされていたものだからかなり身構えていた。

朝6時、セラピストが「コンコン」とドアをノックし、トレイに載せた銀色のコップを持ってきた。中には褐色の油が入っている。意を決し、息を止めて一気に飲む。おちょこ一杯程度の量だったので、味もよくわからないままに飲み干してしまったけれど、これから5日間徐々に量が増えていくそうで恐ろしい。スネハパナ中の食事はおかゆのみで、運動や外出、そして昼寝も禁止。

暇なのでベランダの席に座り、先日買ってきた布でワンピースを作ろうとチクチク縫っていると、向かいの病室の女性の付き添いで来ていたお母さんのスワルナに話しかけられて仲良くなった。彼女は長年小学校の先生をしていて英語が堪能、読書家でとっても物知り。インドの文化や寺院やお祭りのこともたくさん教えてくれた。

ベランダから見える植物を見ては、あれは薬に使う、これは洗剤に使う、などと教えてくれる。ココナッツの茎(木と繋がってる部分)は叩いて使うと歯ブラシになるとか、マンゴーの葉はふたつに割いて、片方は葉を磨き、葉脈のついている方は舌垢をこすり取るのに使うとか。わたしはこうした<おばあちゃんの知恵袋>が大好物なので、彼女の話に大興奮。

ソープナッツの木
ソープナッツの木
マンゴーの木

 

 

ソープナッツの実
ソープナッツの実
ココナツの軸
ココナツの軸

「歯磨き粉には何を使うの?」と聞くと、
「もみ殻くん炭に塩とコショウを混ぜた「ウミケリ」というものがあるわ。普通は家で作るものだけど、ここの薬局にも売っているんじゃない?」と言われ、早速下に買いに走った。

ウミケリの小瓶
これがウミケリ

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