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南インド放浪記 青木麻耶 その2

アーユル・ヴェーダの日々

翌日はギーの量が昨日の倍に増えていた。鼻をつまんで一気に飲み干せばよかったものの、途中で息継ぎをしてしまったものだから余計にキツかった。このギーは症状に合わせて調合していて、調べてみるとわたしのは3種類のギーを混ぜていて、それぞれに10種類以上の薬草が含まれている。肌や消化機能を助けるものが多かった。

ギーがお腹に溜まるのか、運動をしていないからなのか、なかなかお腹が空かない。スワルナは今日も来ると言っていたのに、なかなか来ないなあと思っていたら、夕方になってようやく来たかと思うと、わたしにギフトがあるという。開けてびっくり、なんと白地に金の線が入ったケララの伝統的なサリーだった!わたしのためにわざわざ買ってきてくれたらしい。あまりの嬉しさに言葉を失う。

ありがとう、ありがとう、と言うと
「わたしたちは親しい友人や家族の間ではありがとうって言わないのよ」とニッコリ微笑む。それでもつい癖で「ありがとう」と言ってしまう私を笑っていた。どこまでいい人なのだろう。

娘さんのニキラと二人掛かりで着せてもらう。6mほどの長い一枚の布を腰に巻きつけ、ヒダをつけるように幾重にも折り重ねてぐるりと回して肩にかけて留める。改めて彼女たちはよくもこれを毎日ひとりで着られるなあと感心していたら「あら、こんなの慣れたら2分よ」と胸を張る。

日本人も昔は毎日着物を着ていたわけだし、そういうものなのかもしれない。
インドの女性は美意識がすこぶる高くて、毎日違うサリーやパンジャビドレスを着ているし、お化粧にも髪型にも余念がない(ちなみにショートカットの女性は一人も見かけなかった)。わたしが普段つけないピアスを久しぶりにつけてみたら、「あら、マヤ。今日は素敵ね」とみんな口々に褒めてくれるほどファッションに敏感だ。

サリーを着た筆者
スワルナがプレゼントしてくれたケララ地方の伝統的なサリー

着古したサリーを裂き織りしたり、折り紙を作ったり、マラヤラム語と日本語を教えあったりもした。

マラヤラム語は発音も読み方もすごく難しいけれど、一筆書きの丸文字でとてもかわいい。アルファベット以外の言語は文字を覚えるところから始めなくてはいけないからハードルが高い。日本語を習う外国人もきっとそうだろう。

マラヤラム語を習う、日本語を教える

マラヤラム語を習う、日本語を教える
マラヤラム語を習う、日本語を教える

そういえば、インドでは20×20までの掛け算を覚えるらしいけど、一体いつ覚えるの?と聞くと、

「昔は夜に家族が集まってろうそくに火を灯してチャンティングする時間があって、そのあとに九九や月の名前(マラヤラム語と英語)を唱和させられたのよ。だから学校に入る前には覚えていたわ。おじいさんやおばあさんから昔の話をたくさん聞いたのもその時間だったわね。でも今はインドも核家族化が進んで、親も仕事で忙しくてなかなかそんな時間が取れないし、そもそもそういうことに興味のある人も少なくなってきたからね」と言う。

どこの国も同じだけど、こうした文化や伝統がなくなってしまうのはさみしい。

明日はシヴァラティというシヴァ神の祭日らしい。もともと異なる国々だったインドは、州によって祭日も文化も大きく違い、国全体で祝うのは1月1日の元旦くらいだという。「わたしは自分の文化に誇りを持っているの」と話すスワルナはやっぱりとても素敵だった。

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