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南インド放浪記 青木麻耶 その1

家庭料理と家族のかたち

3,000年の叡智がつまったアーユルヴェーダやヨガ、スパイスをふんだんに使った家庭料理、色彩豊かなブロックプリント… わたしがインドに惹かれた理由はいくつもあるけれど、一番大きいのは「インドとアフリカに行かずには死ねない」という、ここ何年か自分の中にある感覚からくるものだった。アフリカに行くのならゆっくりと時間をかけて自転車で周りたい。今回は春の仕事が始まるまでの2ヶ月、まずは南インドに行こうと決めた。

インドに行ったのは今年の1月17日~3月19日。出発する頃は想像もつかなかったが、2ヶ月の間に世界は大きく変わり、3月に入ってからは帰国も危ぶまれる状況となった。間一髪、ロックダウン直前に帰国できたが、あと数日遅ければ今頃どうなっていたかわからない。

わたしがインドで見てきたもの――2ヶ月の滞在の中でも強く印象に残っているのは、インドに昔から伝わる知恵、技術、伝統を脈々と受け継ぐ人たち、そして外から来た人たちがその環境で、そこにあるものを使って、持続可能で楽しい新たな文化を創造しようとする姿だった。

旅をする中でたくさんのおいしいものに出会ったが、中でも記憶に残っているのはやはり家庭の味だ。

広大なインドの中でも、三角形に突き出た南側の5つの州(アーンドラ・プラデーシュ州、ゴア州、カルナータカ州、ケーララ州、タミル・ナードゥ州)が南インド。最大の特徴は、米が主食であること。内陸のデカン高原から海に向かって大河や支流が流れ、水も豊富なため、稲作が盛ん。また、緯度で言えば沖縄よりも遥か南、ベトナムやフィリピンと同程度で、年間を通して気温が高く、地域によっては二期作、三期作も可能。この豊かな水と温暖な気候のおかげで、この地の人びとは米だけでなく、ココナッツバナナ、そして多種多様なスパイスを実らせ、独自の食文化を築いてきた。
寒い北インドでは、バターやクリーム、チキンやマトンなどの動物性を多用した、こってりしたカレーにチャパティなどの小麦の主食が多い。我々日本人が一般にイメージする「インドカレー」はこちらだろう。一方、暑い南インドでは、乳製品の代わりにココナッツを多用し、野菜や豆、魚介を中心に、酸味やスパイスを利かせた短時間で作るカレーと、お米や米粉をつかった主食が主流。

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