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南インド放浪記 青木麻耶 その1

家庭料理と家族のかたち

つづいてお世話になったプラヴィーンはITエンジニア。近年インドの若者の間で人気のIT職だが、その理由として、“ITは新しい仕事なのでカーストに関係なく、誰にでも平等にチャンスが与えられるから”ということもあるようだ。

バイクが大好きだという彼は、事前にわたしの興味があるものを聞いてプランを立て、チェンナイの街をあちこち連れ回してくれた。「フィッシュカレーを食べてみたい」と言ったらわざわざおいしいお店を調べていてくれた。彼があまり食べないので、どうしたんだろうと思って聞くと「帰ったら妻がごはんを用意しているからね」というので居た堪れない気持ちになった。お会計で財布を出そうとしても、「君は僕のゲストだから」と一切払わせてくれない。ラジェシュといいプラヴィーンといい、本当に紳士だ。

彼自身もインドのあちこちをバイクで旅して周ったこともあって、わたしの旅話にも興味津々で、「うちの家族にも会わせたいから」と後日、自宅にも招いてくれた。彼の両親と妻のバヴァニ、そして3歳になるかわいい娘さんと親子3代で住んでいる。
「さあさあ、座って」と挨拶もそこそこに、朝食をいただく。

プラヴィーンのお父さんが庭からバナナの葉を切ってきて、それをお皿代わりに床にひき、車座になってみんなで食べた。バナナは成長が早く、実も葉も重宝するので、どこの家にも必ずと言っていいほど植えられている。

プラヴィーンは建築中の新しい家も見せてくれた。「ここは僕のドリームハウスなんだ」と彼が言うだけあって、この家を設計するにあたり、南インド中の建物を見たり技法を調べたりしたそうだ。ご両親の加齢や娘さんの成長も見据え、工夫と遊びゴコロが凝らされた、家族想いの彼らしい家だった。(わたしが行ったのは1月末だったが、3月半ばには新しい家に引っ越したそうで、写真を送ってくれた)

お昼ごはんの魚を買いに、近くの市場へ行くと、照りつける日ざしの中でおばちゃんたちが魚を売っていた。魚を選ぶと、隣で地べたに座っているおばちゃんが、地面に固定された刃物を使って器用にウロコや内臓をとって処理してくれる。あたりにはおびただしい数のハエが飛んでいるけれど、誰も気にしない。わたしも気にしない。だってここはインドだもの。

帰り道、バイクの後ろの私に向かって「僕とバヴァニは恋愛結婚なんだ。しかもカーストが違ったから、彼女の親を説得するのは大変だったよ」と笑うプラヴィーン。事前にラジェシュの話を聞いていただけにとても驚いたし、彼女の親戚の中には今もよく思わない人もいるという。でもそうやって困難を乗り越えて一緒になったからこそ、彼はとても家族を大事にしているのがよくわかる。

家に戻ると早速調理開始。バヴァニに南インド料理の基本中の基本・サンバルラッサム、そしてエビカレーの作り方を教えてもらった。
「どんなものにもターメリックをひとつまみ。でも香りが強いから少しだけね」

野菜やエビははじめに塩とターメリックで洗うことで臭みや農薬の影響が抑えられるという。圧力鍋でダルを煮込み、トマトやオクラなどの野菜を加える。サンバルラッサムの味の決め手は、“タマリンド”という酸っぱい実と、独特の香りをもつ“カレーリーフ”。タマリンドはタネがあるのでぬるま湯で果肉をふやかしてもみほぐし、液体だけを入れる。カレーリーフは香りが飛ばないように最後に加える。お米の炊き方も特徴的で、パスタを茹でるように多めの水にお米を入れて、最後にはお湯を切って蒸らす。

「こうすることででんぷん質が水に流れ出るから、食感が軽くて、たくさん食べても太らないのよ」とバヴァニ。こっちに来てから大盛りご飯もペロリといけてしまうなあ〜なんて思っていたら、そんなからくりだったとは。(果たして本当に太りにくいかという問題については、街ゆく人々を見る限りは疑問符が残るけれど)。

その日の夜にはプラヴィーンの従兄弟の結婚祝いがあるとかで、親戚のお家に連れて行ってくれた。インドのお祝いといえばインド流炊き込みご飯・ビリヤニ。たくさん作ったほうがおいしくできるので、こうしたお祝いの席に登場することが多く、後日訪れた結婚式では約2000人前が振舞われていた。はじめて食べたヤギのビリヤニは驚くほどクセがなく、すでに朝も昼も食べ過ぎてお腹がいっぱいなはずなのに、ペロリと平らげてしまった。

部屋中には家族や親戚の写真が飾られていた。「うちの息子(ブラヴィーンの叔父さん)もITのエンジニアをしていて、日本に住んでいるのよ。わたしも訪ねたことがあるわ」と嬉しそうに話すおばあちゃん。日本の話でも盛り上がり、夜遅くまで宴は続いた。

インド人はとても家族を大切にする。初対面の人であろうと、名前を聞くよりも先に、まず自分の家族や親戚の話をして、写真を見せてくることも多い。時には「これはいとこの旦那のお姉さんの息子」みたいな登場人物すら出てきたりして困惑することもあったけれど、わたしが関わった人たちはみな、自分の家族にとても誇りを持っていた。

南インドは北インドに比べると教育水準が高く、裕福とされるが、今回お世話になった人たちは、その中でも比較的リッチで自由な階層の家庭である。IT企業が軒並み進出し、スマホの普及に後押しされたテクノロジーの進歩により、変わり続ける一方で、旧来のカースト制度によって縛りや制限、差別も生み出しているとも聞く。そのなかで守られてきた「家族の絆」のようなもの。家庭料理と家族の食事には、さまざまなインドの今が込められている。

  • 写真はすべて筆者提供

あおき まや 2016年5月から1年間、北米南米8カ国を自転車で移動し、各地の持続可能な暮らしや手仕事を見て周る。帰国後、2017年夏からは約半年間で31都道府県を走り、伝統文化や手仕事、自然と寄り添った暮らしを営む人たちと出会う。今後はローカルな日本の魅力を伝えるために、ガイドやライター業を通して人と人をつなげ、情報の発信を行なっていく。

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