ジグ日記 | 出版舎ジグ

けありんぐ・のーべんばー その1

11月14日。
水木金土と出勤?がつづき、今日=日曜はひさしぶりの休日で、下北沢。
人がたくさん歩いている下北沢を見るのは久しぶり、でもあるような。それが錯覚かどうかもあやふやな日付感覚にいる。でもお店が時短・自粛モードをとりはらった開放感が、いつもと違う。

この水・木・金・土は、大塚駅方面に通っていた(ソーシャルワーク系の資格のための必須実習が8日間あり、大塚駅徒歩数分の、ベトナム・タイ料理店・食材店の並びにある事業所へ)。数年ぶりの大塚駅前も、いちだんと整備されていて驚いた。山下書店大塚店(24時間営業!)は相変わらず棚に気合いが入っていて見飽きない。これから当分立ち寄れるのが嬉しい。

その実習のおりかえしの日曜、「Caring November」というイベントが展開されている、下北沢の小田急線路跡地のエリアへ。ここに入っている本屋B&Bさんにご縁をつないでいただいたこともあり、行かねばと思っていたのだった。編集者さんやライターさんがケアに関する選書をして、さまざまにケア本のコーナーをつくっている。お声がけ、光栄です。

自分の編集した本と、ケアに関するお奨め本を選書する、という仲間にまぜてもらったのだった。ほんとうなら初日から毎日様子を見に行くべきところ実習中につき、やっとのご挨拶。

私の選書はこちら。

「ケア」の本 : 白崎朝子『Passion ケアという「しごと」』(現代書館)
冒頭から白崎さんは自らの生育歴と家族歴を開示する。そこには過酷なまでのケアの必要と欠如があり、彼女が他者をケアする人生を歩む理由、つまり受難=Passion=情熱がある。でもそれは全ての人にとってのケアの真実だ。

ケアの本の選書のほうは、『ヤングケアラー わたしの語り』(澁谷智子編著、生活書院)とどっちにしようかかなり迷ったのだった。このテーマへの着眼の初期からずっと発信している著者が、当事者の言葉を丁寧に束ねた、誠実で切実な本。(B&Bさんにはしっかり面出しで置いてありました)。

自己紹介の本のほうは、地元・世田谷の障害者自立とケアの本『ひらけ!モトム』(岩下紘己著)か、最新刊の『障碍の児のこころ』(田中千穂子著)にするか、これも迷って、“自己紹介”のチャンスはめったにないと思い、ジグの最初の本にした。アイルランドの田舎の暮らし、アイルランド音楽のある日常、が綴られた本なのだけれど、この本で届けたかったのは、アイルランドの小さな村で、お隣さん・ご近所さん・コミュニティがケアしあう風景だ。料理や地産地消の、ときに野生の食べ物や、なにやかやのシェア、そこにおいての音楽やパブのありようを、丸ごと知って欲しくて本にしたのだった。

自己紹介の本 : 望月えりか『見飽きるほどの虹 アイルランド 小さな村の暮らし』
ひとり出版+ソーシャルワーカーで生きたいと決めて最初に作った本。巻頭のエッセイと末尾の「農夫パットさんの帽子」(You saved my life!)に思いを込めて。実はこの本のテーマは、互いを気に掛けること(ケア)、なんです。

読めば伝わる、けれど読まなきゃ伝わらないし、書店さんへの営業でも、この全体の説明はやっかいで、「どの棚に置いたらいいのか」迷わないように「ヨーロッパの現地暮らしエッセイ」とか「手作り生活」とか「音楽」とか「環境」とか「コミュニティ」とか、各種の旗を立てるしかなかった。B&Bという書店のポップで、こういうことをほんの少しでも発信できて、やっと言えたかな、という思いだ。そうなんです、えりかさん(←著者です)。

(選書者の署名に「社会福祉士」までつけくわえたのは、どうだったかな。名称独占でしかない名称であるから、名乗らなければ意味がないと思っているものの、名乗ることに意味があった経験が、ほぼほぼ、ない。だからこの名称を「出版舎ジグ」とならべて示すことは、今後あまりないと思う。)

で、Caring Novemberって何。

B&Bの入っている建物の1階の小さなスペースで「ケアを科学する」パネル掲示あり。会場に高齢者や障害者や、ケアワーカーがうろうろ+うようよいる、わけではないようだった。緊急事態は解けたとはいえ、なにしろコロナだから。1ヶ月のあいだ、すこしずつ、展開するのかもしれない。オンライン配信でケアワーカーのトークや、医学書院の本の著者のトークもあるようだ。

27日の土曜に「BOOK LOVERS HOLIDAY ケア編」というワンテーマのブックマーケットがあり、出版舎ジグも出店します(ここで『ひらけ!モトム』『障碍の児のこころ』をフューチャーするつもり)。その翌日の日曜には介護グッズのマーケットもあるそう。

「11月11日は、介護の日。」

というキャッチが眼に入り、「そうだっけ?」検索すると。

平成20年7月28日               厚生労働省 社会・援護局 福祉基盤課
「介護の日」について

厚生労働省においては、“介護について理解と認識を深め、介護従事者、介護サービス利用者及び介護家族を支援するとともに、利用者、家族、介護従事者、それらを取り巻く地域社会における支え合いや交流を促進する観点から、高齢者や障害者等に対する介護に関し、国民への啓発を重点的に実施するための日”として、「11月11日」を「介護の日」と決めました。 ※平成20年7月27日の「福祉人材フォーラム」において、厚生労働大臣より発表しました。

2008年に決めたんですね、そうでしたか(知らなかった)。

介護、ここでは高齢者介護を念頭に置いていたんだろう。そのあとの13年間は「介護」は「ケア」としかいいようのない、配慮と助けを要する状態に置かれているひとたちへの配慮と助け、の必要を山のようにあぶり出した。貧困も震災も豪雨も虐待もパンデミックも、そのなかの、それぞれに、すぎない。

ケアに関する本、を選ぶときに、だから、呆然とした。どのケア?

その時に思ったのは、それなら、ケアする人のためのケアの話の本を選ぼう、ということ。それで澁谷智子さんの編著をいったんえらび、さらに、「家族の囲い」と「労働現場」両方のリアルがつづられた白崎さんの本にしたのだった。「ケア」を考える、のは、おそらくは「ケア」をながらく「外」にはじいてきた、「資本主義」を考える、ことになるはずなんだよね。穏やかさとあたりまえをもとめる、戦闘モードが、そこにある。

下北沢は私のケア本格修行の始まりの地でもある。6年間、台風の日も雪の日も子どもかかえて朝晩息を切らして通った下北沢保育園があったから。上記のイベント会場の「かつてなら、小田急線の踏切をわたったところにあった」場所。耐震工事で解体の必要があると長らく言われ、それでもずっと運営されていた保育園、しばらく前にもこの前を通ったのに。

この日、突然のように、更地になっていたことを知った。こんなに広かったんだなあ。

 

↑

新刊のお知らせ