出版舎ジグ 刊行書籍 jig-05 障碍の児のこころ 関係性のなかでの育ち
新版
田中千穂子

2021年10月7日刊行

1600円+税 四六判 184頁 並製
978-4-909895-05-9  C0011

知的な障碍のある子のこころは、「どうせわからないだろう」と扱われれば閉じてしまうけれど、「違う」ことに傷つき「できない」ことに挫けつつ、わかろうとする人に語りたい、たくさんの気持ち、共有したい思いがある。発達相談やプレイセラピーを通じて、その育ちと傷つきに伴走してきた臨床心理士から、伝えたいこと。2007年初版の名著の新装復刊。

この本の帯の背には、2007年版と同じ言葉を置いています。
「想ってみたことがありますか」。

「障碍をもった子どもが成長してゆくとき、おそらくは自分はほかの人と同じではない、ということを含みこんで人間関係をつくってゆくのだろうと思います。彼らはどのような気持ちで成長してゆくのでしょう? 自分がほかの子と違うと気づくとき、思春期を迎えるとき……いったい彼らのこころや気持ちは、どんなふうになっっているのでしょうか。特に、知的な障碍のある子どもたちのこころについて、書かれた本はほとんどないように思うのです。自分の子どもの気持ちでも、親にはわからないことが多いでしょう。ほかの子どもの例を読みながら、知的障碍のあるわが子のこころについて、親が落ちついて静かに考えることのできるようなエッセイを書いて下さい」。私は編集者である堀切和雅さんに、このような依頼をうけました。

――と著者の田中千穂子先生は「はじめに」で述べています。
本書の初版は2007年9月にユビキタ・スタジオより刊行されました。企画し編集したユビキタ・スタジオの堀切和雅さんは、希少難病による障碍をもつ子の親でもあります。今回、新版の巻末には、堀切さんによる解題=この本への思いも寄せていただきました。こちらからも読めます(この本がいまも生きているわけ)。堀切さんは出版舎ジグのサイトでも、ただいま連載中です(春 待つ こころ)。

東京にある小さな個人開業のクリニックで、心の病気や悩み、さまざまな問題を抱えた人々を心理的に援助する仕事」をしてきた田中先生は、障碍のある人々への臨床的な発達援助のなかで、関係性という視点と、発達的な視点とを、心理臨床の柱にしていったそうです。そのクリニックは早い時期からダウン症の赤ちゃんの発達相談にとりくんでいました。

本書には、ダウン症や自閉症、知的障碍の心理的な負担による神経症状など、さまざまな障碍をもつ子どもたち、子どもから成熟してゆく人たちが登場し、言葉だけでなくその表情やふるまいで、多くの思いを伝えてくれます。その思いを、臨床心理士の著者が、全身でよみとり、見立て、かかわってゆく過程が、語られていきます。

私がクリニックで出会うのは、自分なりの素敵な人生を自分でつくり、歩んでいこうとしている過程で不調に陥り、どうしたらよいか、にっちもさっちもいかなくなり、問題行動や症状を呈した人々です。
(中略)
私自身が何とかことばを用いてまとめることができた一部のケースだけを、ここに収めました。まだ、うまくことばにできないケースも、現在奮闘中のケースもたくさんあります。また、いつもここに描いたようなやりとりをしているわけではありません。何年も同じ内容が語られていた面接のある局面、ある瞬間に異次元の扉が開くように、すごい内容がポーンと飛び出してくることがあります。そういう出会いと関わりの断片の集積が、この本にあつめられているのです。

――「はじめに」より

「あまり語られてこなかった大切なこと」が、こうして本になったのでした。どうぞ開いてください。

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『障碍の児のこころ』初版(ユビキタ・スタジオ刊、2007年)の編集者・堀切和雅さんのエッセイ「春 待つ こころ-障碍の児の思春期、ノート」を、ジグのサイトで連載中。

連載のその4に「この本がいまも生きているわけ」(本書の解題)を公開。

ジグ日記に本書の復刊にまつわるエッセイ「その本がいまも生きているわけ」を公開。

 

著者紹介 - 田中千穂子

たなか・ちほこ
臨床心理士。1954年生まれ。東京都立大学大学院文学研究科心理学専攻課程修了、文学博士。花クリニック精神神経科勤務(~2021年3月)、東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース教授(~2011年3月)、学習院大学文学部心理学科教授(~2021年3月)ほか歴任。著書に『母と子のこころの相談室』(医学書院、改訂新版:山王出版)、『ひきこもりの家族関係』(講談社+α文庫)、『心理臨床への手びき』(東京大学出版会)、『プレイセラピーへの手びき』『関係を育てる心理臨床』(日本評論社)ほか。

目次

  • はじめに

  • 1 知的障碍のある子のこころ
    基本的には変わらない/思い込み/健常な子どもの育ちとの違い

  • 2 自分に[ひけめ」を感じるとき--乳幼児期
    自分が自分に感じる「ひけめ」/発達相談で/ひるむ気持ちとやりたい意欲のはざまで/ひけめの育ち/ただのひけめから劣等感へ/逃がしてあげる・待ってあげる/自分が自分にめげるとき/「疲れ」が大敵/
    「もう最悪だよ」から「ガスケツですから」へ/学校での環境調整に助けられ/居場所もできて/「空想の世界」という友だち

  • 3 他者との関係性のなかで-物語を紡ぐこと-児童期
    就学への迷いと親の願い/「学校には行かない」ときめて/プレイセラピーに通いはじめる/「切り刻まれ物語」を変えていく/学校にちょっと戻る/わかってくれない人への対処と、わかってくれる人への対処は違う/はじかれるから、はじきたくなる/わかってもらえるからこそ頑張る/「親ばか」のススメ/自分なりの納得を求めて/ずっと悩んで考えた/「エイゴベンキョウシマス」と夜間学校へ/関係性に支えられて/「私がしっかりしてなかったから」/関係性のなかで明確になってゆく/自分と自分の障碍を折りあわせてゆく/自分の障碍への気づきと親の姿勢/雰囲気で支える/「私は目がみえるもん」

  • 4 思春期の到来 
    思春期以降のアウトライン/ゆっくり訪れる思春期/恋、結婚、仕事/余裕がなくなると不調になる/親の対処:過剰な保護からふつうの保護へ/「全面的な守られ」からの巣立ち/親の守りのなかで安心して育つ/「こわごわ」でいいからやってみる/親の意見の相違の意味/自分で自分を守ること/「動かない」というストライキ/疲れがたまったことを契機として/拒否できるようになってきた/自分をとりまく世界の変化に戸惑う/「お腹がいたい」ではじまった/ 日々のなかにもある「衝撃」/うれしいけれどもちょっと淋しい/生活にはりを与える小さな変化/自己主張の発達/一歳をすぎる頃:拒否能力「イヤ!」が育ってくる/二歳をすぎる頃:自己主張がふえてゆく/

  • 5 自分らしく生きてゆきたい
    おとなになって/早く仕事につかせようとする社会/一人のおとなとして扱ってもらえない/「困った人」から素敵な女性に/正当に発揮されない能力が問題行動に/問題行動による激しい訴え/彼女にとっての「相談」とは/自分で調整をはじめる/精神的なゆとりがふえて/ことばを扱う力がふえる/「ひとりでクリニックに行きます!」/自立したおとなへ/仕事のなかでうまれる悩み/聞けないし、尋ねられない/夢は叶わなかったけど/仕事をするだけが人生ではない/家を出て生活する・自立する/急がされた巣立ち/「私の家はあっち(施設)です」

  • おわりに
    彼らにとっての心理相談とは/ことばとの関係性が豊かになる/援助者にできること/親は子どもの障碍とどうつきあえばいいのか/

  • この本がいまも生きているわけ (堀切和雅)

障碍の児のこころ関係性のなかでの育ち
新版

著者・田中千穂子

1600円+税

四六判 184頁

ISBN
978-4-909895-05-9

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