本を売る 鈍足編集兼営業担当と俊足著者 その1
本を売る… 9月に出版した『なないろペダル』は、8月末頃に刷り上がり、中央製版印刷さんから無事トランスビューの倉庫(前回のジグ日記参照)に搬入、そのあとどう売られるかというと。
8月末、「9月にでる本」という書店向けカタログにエントリーし(内容紹介と書誌データと書影を入稿)、チラシを制作し、月末定例「DM封入大会」に間に合うよう、プリントパックさんなどに発注する。(9月には「でた本」でもう一回、同じ作業をする)
それらチラシが山ほど届いた当日のトランスビュー社屋で、トランスビュー組(トランスビューの取引代行サービスで本を流通させている出版社)各社が作業台にならび、せっせせっせと流れ作業で、全国1600書店に向けた封筒に収め、翌日発送される。(FAXでの広告兼注文書送信サービスもある)
※「今月でた本・来月でる本」「DM封入大会&残業」は、出版や編集に興味ある人には知れ渡っていると思いますが、「トランスビュー」「封入大会」と検索すれば多数のコメントやブログが見つかります。十人十色のリアルなそれらコメントや、参考書『まっすぐ本を売る』もご参照下さい。読書メーター
DMチラシを手にした書店の仕入担当さんが「うちの棚に仕入れよう」と思ったら、注文書兼用DMを使ってトランスビューにFAXで発注する。かれら書店員さんから送られる、書店ハンコと手書き担当者名、たまに短いメッセージつきの発注FAXはトランスビューあてだが、版元もWEBからチェックできる。私などは感激して、受注する度にプリントアウトして束ねて大事にしている。
その書店さんに足を運ぶ際には、できるだけ担当者さんに会ってご挨拶する。(この時「ありがとうございます」だけでなく「嬉しかったです」と言ってしまう、素人くさいなあ)
ひとりでやっているから、とは言い訳にできないが、なかなか営業の書店まわりができないこの頃も、本をつくって売るのは対人的な作業だと思うし、実際、そうであることを実感する。
これらは書店さんへの宣伝であり、営業。
では読者や読者になってくれそうな人への宣伝・営業は…
大版元なら新聞広告やPR誌・新刊案内がある。私自身は、新聞広告をみて「この本買おう」と思う人はどのくらいいるのか長らく実感がないし、週末書評を読む人も、それを読んで本を買う人もどのくらいいるか、もはやわからない(編集者や研究者は別カウント)。よほどの「話題」があった上で、そうしたメディアが補強するイメージはあるけれど。
一方で、小規模でも大手でも、書店や版元が企画する、それこそ対人的な営業=ブックトークなどのイベントは、増えつづけている。むろん、実際の売上やコストをシビアにはじき出すと「やってられない」という結論を出す版元はあるはず。一方で、本や書店をめぐるアイディアはもっと面白さを工夫するほうへと動いているように見える。それが消耗戦に見えるならもう終わりだけれど、まだそうは見えない。
なんのスローガンを置かずとも、書き手の言葉がいったん束ね閉じられたモノ=本を介して人が集うことで、その空間や時間の質を、濃くしたり軽くしたり、カラフルにしたり、そのようなマジックが可能だ。そこに、ちょっと希望や可能性を感じるのは、版元や書店だけではないはずで、学校や、飲食店や、公共空間の主催者や、コミュニティなんかも含まれていそうだ。ここに期待してよいのかもしれないと、弱小版元・鈍足編集/営業担当は思う。