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家事労働者とその周囲のこと 伊藤るり その2

ヴィヴィアン・マイヤー

「謎のナニー・フォトグラファー」像とその背後にあるもの

2019年3月、調査のため滞在していたパリで願ってもない情報を得た。宿舎の近所にあるギャラリー「レ・ドゥーシュ」でヴィヴィアン・マイヤーの写真展The Color Work(1月19日〜3月30日)が催されているというのだ。
マイヤーは1926年、フランス人の母親、オーストリア人の父親のもとにニューヨークのブロンクスで生まれた。1950年代から80年代のアメリカで初めはニューヨーク、ついでシカゴで「ナニー」(乳母)として働きながら、ストリート・ライフを撮影し続けた「ナニー・フォトグラファー」として知られる。

生前はまったくの無名であったが、83才で困窮のうちに亡くなった直後の2010年代に一躍注目されるようになり、いまではアンリ・カルティエ=ブレッソン、ダイアン・アーバスやリゼット・モデルと並ぶ20世紀を代表するストリート・フォトグラファーのひとりと目されている。2014年にはアメリカでドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」(ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル共同監督)が公開され、日本でも上映された。わたしもこの映画でその存在を知った。以来、写真の実物を観たいと思いつづけていたので好機到来、やや曇った金曜の午後、期待に胸膨らませて写真展に出かけた。

ギャラリーのある建物はアールヌーボー調の建築で、「レ・ドゥーシュ(「シャワー」の意)」という名前が示すようにもともとは公衆浴場だったらしい。週末も近いからか、老若男女の来館者が2階の小さな会場に階段を上ってひっきりなしにやってくる。マイヤーの熱烈なファンは思ったより多いのであった。


マイヤーは15万点もの写真を、大部分はネガのままの状態で残したといわれるが、この日、わたしが鑑賞できたのはそのうちのほんの一部、50点ほど。1950年代ニューヨークの写真は白黒、1960年代から70年代のシカゴになるとカラーもあり、時代によって趣が異なる。ただ人間の内面に肉薄し、性別や人種、階級の対照的な現実、社会の矛盾、滑稽さ、悲惨を捉える観察眼の鋭さ、斜に構えてものごとを見つめるスタンスやそこはかと滲むユーモアは一貫している(注1)。

1)作品は「レ・ドゥーシュ」のサイトで見ることができる(アクセス日:2020年3月22日)

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