出版舎ジグ
jig-web 連載

闇が深まれば光も強くなるヘッダー画像

飯地山里つうしん この地にたどり着いて 3 小林麻里

闇が深まれば光も強くなる

飯地のメガソーラー建設が決まってしまった。*1
その知らせは、私が暮らす沢尻とメガソーラーが建設される杉之沢、福原尾の3組が、人口減少に伴い統合してできた2区の集会の後に突然やってきた。
「杉之沢の住民が同意したので建設が決まりました。4月から工事が始まります」以上。
私たち他の組の住民たちには全く何も知らされていなかった。住民の反対署名の多さによって、飯地町自治区協議会としても反対決議を市に提出したにも関わらず!
区集会から戻ったTからそのことを聞いた私は、泣き叫んでしまった。
飯舘に放射能が降ったことを知った時と同じように。

私たちが知らないところで、開発業者、施工業者、行政によって、事は粛々と進められていたのだ。開発業者の担当者が杉之沢の住民宅を一軒、一軒回り説得したのだと、「飯地町大規模太陽光発電施設建設対策協議会」の委員から聞いた。お年寄りだけや女の人の一人暮らしも多い地区だから、この道のプロである担当者から言葉巧みに説得されれば承諾する以外なかっただろう。

恵那市は形ばかりの条例を作って*2、周辺住民の同意を求めているけれども、結局は国策であるこの事業*3を進めていくことしか頭にないのだろう。自然保護や景観保全、そして周辺住民への影響は全く考慮しない。そのことが今回の件で明確になったように思う。飯地だけではない、他の町にも、どんどん恵那市が許可を出し建設が進んでいる。恵那市は移住定住に力を入れているというが、ソーラーパネルだらけの場所にいったい誰がわざわざ移住してくるというのだろうか!*4

杉の沢地区の住民と開発業者の間で交わされた取り決めの内容を、上記協議会の委員二人から聞いて、私は唖然とした。「お祭りなどに補助金として年間50万円出す」とか、「イノシシ捕獲用の檻を設置する」とか、大規模養鶏場(すでに受け入れている迷惑施設)の臭いが、遮る樹木を伐ってパネル設置した結果、酷くなった場合は、「住民に替わって養鶏業者と話し合いをする」とか、設置工事の影響で水が枯れたら「ポンプを設置する」とか。これでは何も対策しないと言っているに等しい。

開発業者は問題が起こった際に言い逃れをするためのマニュアルも作っていることだろう。行政も何もしてくれないだろう。だから住民は泣き寝入りする以外にないのだ。

自分が暮らしている周辺の風景が一変するという経験をしたことがあるだろうか。私は震災原発事故後の飯舘村で経験した。美しかった田園風景が除染土を詰め込んだフレコンバックの山と変わってしまった。ショックだった。私が飯舘村で暮らしたのはたった7年だったが、それでも身を切られるような思いがした。私ですらそうなのだから、飯舘で生まれ育ち、代々農業を続けられてきた方のショックは如何ほどだったことだろうと思う。

私にとっては、身近な風景が再び一変する体験となってしまった。私の家からは見えないのだけれども、だから関係ないとは私には言えない。辛くて仕方がない。杉之沢のみなさんには大変申し訳ないが、ソーラーパネルに埋め尽くされた風景になったら、私はとても足を踏み入れることはできない。

毎日それを眺めながら暮らすことになるみなさんのことを思うと、居たたまれない気持ちになる。その精神的被害は計り知れないだろう。私は昨年末に開催された、業者による説明会の場でそのことを繰り返し訴えたが、社長の回答は、なんと「自分は気にならない」だった。私は思わず絶句してしまい、それ以上質問を続けることができなかった。

最も被害を受けるのは、その場所を住処とする人間以外の生きものたちだ。鳥、蛙、ヘビ、トカゲ、イモリなどや昆虫たち、そして土の中で暮らしているミミズなど、目に見えないものたちも、住処を失うだけでなく、いのちを失い、次の世代に引き次ぐことができないものも多いだろう。開発業者や行政にはそういう視点が全く欠如している。だから平気で破壊することができるのだろう。

こんな町はもう嫌だ!と思った。けれども、これは飯地に限ったことではない。日本全国どこへ行っても同じような問題がある。逃げても同じ。この時代からは逃げられないのだ。

あまりにも怒りや悲しみが強すぎて、なかなか気持ちの整理をすることができない。昨年夏にこのサイトに書いた、その後の状況をお知らせするために書いているのだが、今回はもう冷静ではいられないのだ。もう事は決まってしまい、動き始めている。こうして書いたところで何も解決しない。怒りをぶつけても、嘆き悲しんでも、正義を振り翳しても何も変わらない……。時代の狂気を目の当たりにしながら、巻き込まれることなく、心が壊れてしまうことなく生き抜いていくにはどうすればいいのか。それは私が原発事故後ずっと考え続けているテーマだ。

【飯地 山里つうしん この地にたどり着いて】 連載一覧

↑

新刊のお知らせ